当館はタワー型ダンジョンではございませんお客様ァ!
江田・K
第一部 「当館はタワー型ダンジョンではございませんお客様ァ!」
プロローグ 本日も満員御礼です、支配人
「支配人、団体のお客様が当館南の川向こうに集結しております」
「団体のお客様、か。……今日は予約入ってたんだったか?」
かっちりと制服を着こんだアイの業務報告に、俺は答えのわかりきっていることを訊いてみる。まあ、念のためだ。僅かな期待も多少。
「はい。いいえ、支配人。予約は入っておりません。今日も明日も明後日も金輪際入っておりません」
「つまり彼らは?」
「冒険者です」
――だよな。知ってた。知ってたけど。
「ウチはダンジョンじゃないって何度言えばわかるんだあの連中は」
「それで、いかがなさいますか。本日も満員御礼です、支配人」
うんざり顔の俺に、アイは冷水でも浴びせるような口調で訊いてくる。これでも随分マシになった方ではある。
「仕方ない。勤務中の従業員を全員出せ。お出迎えするぞ。ただし絶対に殺すなよ。……クレーマーは将来的にリピーターになりうる。はずだ。たぶん。おそらくこの世界でもな」
「かしこまりました」
アイ経由の視覚共有で、俺にも外の状況は把握できていた。
剣だの槍だの斧だの物騒な得物を携えた連中が橋を渡ってウチの正面玄関目指して突っ込んでくる。
「アイ、俺たちも出るぞ。下手に入館させてまたロビーを破壊されてはかなわんからな」
「はい。支配人。アイはお客様の排除に全力を注ぎます」
事務所からフロントに回り、玄関へ進む。玄関の自動ドアは稼働してないので専属の
「お疲れさん」
俺が
――俺が表に出ると既に戦闘は始まっていた。
「親玉が出てきたぞ!」
目敏い冒険者が俺とアイに気づき、喚いた。
誰が親玉か。
俺は支配人だ。
よく知りもしない他人を悪人みたいに言うものじゃない。
「お客様! 当館は宿泊施設です! 当館側に戦闘の意思はございません! 宿泊ご希望のお客様がおられましたら、挙手願います!」
だが俺の声は今日も届かない。
返事は罵声と怒号ばかりだ。やれやれ。
仕方ない、と俺は諦め、
「残念ながらお客様はいないようだ。アイ、お帰り頂け」
「はい、支配人」
アイの指示で骨の壁と化した従業員に押されて、冒険者はことごとく川に突き落とされた。
――これは
「困ったものだな」
「お疲れ様です、支配人」
アイが淡々と肩を揉んでくれる。丁度いい力加減だ。
この時間がせめてもの救い、なのかね?
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