第2話 俺の中にいるヤバい「ヤツ」

 俺が目を覚ますと、そこはホテルの事務所だった。

 生きている?

 俺は死んだはずじゃあなかったのか……。


(転生したのよ)


「は?」

 どこかから声が聞こえる。いや、直接俺の脳に、いや、魂に響いているような。


(儂の力でな、転生したのよ)

「転……生……だと?」


 転生。異世界転生。そんな夢を今わの際に見たような気もするが。


(しかしお主、未練ごと来いと言ったのは儂じゃが)

「なんだよ」

(この建物ごと転生してとんでくるとは思わなんだわ)

「そんなこと言われても」


 知らんがな、としか言いようがない。

 そもそも異世界? ここが? 

 事務所の窓の外に視線をやると、そこには見知った近所の駅前の景色は存在しなかった。


 代わりに絶景と言って差し支えない光景。

 そびえる山々。

 広がる木々が織りなす深い森。

 手入れのされていない自然のままの渓谷。


「どこだここは。どういうことだ一体」

(だから異世界じゃと)

「マジでか」

(表に出てみればよくわかるじゃろうよ)


 うちなる声に導かれるままに事務所からフロントに出て、正面玄関から表に出た。

 山頂近く、切り立った崖のこちら側にホテルがある。

 細い吊り橋の向こうに行けば、山を下りられるだろう。

 山の麓には集落が見える、が――明らかに現代ではない街並みだった。日本ではない。田舎であるとか世界遺産とかそういう問題でもなさそうだ。というか地球のどこでもない、のか? 中世くらいの文化レベル? そんな風な街並み、か?


「ところで、狼に囲まれてるんだが?」

(どうやらこの建物が転送した際に獣どもの住処を潰したようじゃな)


 オズの魔法使いじゃないんだぞ。

 どうすんだよコレ。表に出た途端に生き死にの窮地って。


(ふむ。頑張れ。ここで死ぬともう終わりぞ)

「いや待ておいコラ」


 俺は丸腰なんだが? な・ん・だ・が!?

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