大団円??

水平線の彼方に朝焼けが見える。


それまでの静かな夜の輝きから、

徐々に空が白んで明るくなりはじめ、

にぎやかなまばゆい輝きへと変わって行く瞬間。


闇の眷属でありながら愛倫アイリン

この朝日が昇る瞬間を美しいと思う。


感覚が人間に似て来ているのか、

相変わらず陽光は苦手ではあったが

それでも嫌いという訳ではなくなっている、

人間達が日の光を求める

そんな気持ちも理解出来なくはない。


サムエラが言っていた

地球が丸いと意識した際の影響が

自分にも出はじめているのかもしれない、

そんな風にすら愛倫アイリンは思う。



船団が漁村に着くと、

村でじっと我慢して待っていたおばあちゃん達が

人魚の娘達と抱き合って泣いていた。


その光景についもらい泣きしそうになる、

そんな人間味溢れる自分も

愛倫アイリンは嫌いではない。


再会の喜びが一段落すると、

今度はおばあちゃん達が

一生懸命用意していたご飯が振る舞われた。


「そう言えば、

何も食べていなかったですね」


慎之介からおにぎりと豚汁を手渡される愛倫アイリン



漁港はいろんな種族の者達でごった返し、

ちょっとしたカオス状態になっていた。


「いや、ここの魚、マジ美味いすっね

自分鳥類系入っているんで、魚大好物っす」


捜索から救出まで協力してくれた有翼人達。


「たまには忍びも

忍ばなくてもいいでござるよ」


禅問答のようなことを言いながら

配下の忍軍をねぎらうニンジャマスター、

今回百名以上の忍者が参加していたことを

慎之介は今はじめて知った。


「あっしも一時はどうなることかと思いましたよ」


シャドウに関しては、

普段ご飯をどうやって食べているのか?

という疑問からはじまる。


「やっぱあねさん、最高っすわ

悪魔の大群を一人で倒しちまうなんて」


「まぁ、今回は少し役に立っていたと

認めてあげてもいいですよ」


リリアンや黒ギャル派をはじめとする

サキュバスの仲間達も元気そうで何よりだ。


村の年寄り達は魚人族と一緒に、

助けてくれた者達

一人一人の手を握り、頭を下げて

お礼を言って回っている。


そんな光景を見ながら愛倫アイリン

おにぎりを一口頬張る。


「美味しいね、慎さん」

「慎さんとのキッスの次ぐらいに美味しいよ」


突然の言葉に、

慎之介は口に含んでいた豚汁をふき出す。


「いきなり、何言ってるんですか」


しかし少女モードの愛倫アイリン

慎之介の顔も自然と緩んでしまう。


-


むしろ慎之介にとっては

それからが本当の仕事で、

仮眠を取ることすらなく

忙しく、身を粉にして働き続けた。


被害に遭った者達に事情聴取を行い、

捕らわれていた人魚以外の他種族、

彼女らの身元確認等を

増援に来た移民局の仲間に引き継ぎ、

海に沈んだゲートと船の調査を

魚人族に依頼するなどなど、

事件に関しては処理しなくてはならない

事務仕事が山のようにあった。


明日もまた一日

事件の報告に追われることになるだろう。


悪魔達の動きについては、

今後もシャドウが継続して調査すると

上層部からも連絡があった。



夜、『スナック竜宮城』に顔を出しに立ち寄る慎之介。

店内では人魚の娘達が

無事に救出された祝杯を挙げており、

村の年寄りと魚人族の他にも

朝からずっとまだ呑んだくれている

有翼人やサキュバス達の姿があった。


慎之介はずっと待っていた愛倫アイリン

二人で酒を酌み交わす。


「……あの時、悪魔も言っていましたが、

この世界の人間は愛倫アイリンさんに、あなたに、

守ってもらう資格が、あるんでしょうか


あの船内に居る人達を見て

そんな資格はないんじゃないか、

正直自分もずっとそう思っていたんですよ」


「どうしたんだい? 慎さん

もう酔ったのかい?」


「まぁ、あんな連中は何処に行ったって

それなりに居るもんだよ」


「それにね、あっちの世界で延々と続く

力による戦いを止めようとしてたことに比べりゃ、

こっちの世界で犯罪を止めようとすることの方が

はるかに楽ってもんだよ」


昨晩の戦いをはるかに超えるーー

愛倫アイリンが今まで

どれぐらい過酷で熾烈な世界で戦い続けていたのか、

慎之介には到底想像もつかない。



「それにですね、

自分もただの弱い人間ですから……

いつか失敗をして、

過ちを犯してしまうんじゃあないか、

あなたの期待を裏切ってしまうんじゃあないかと、

自分で自分がコワイんですよ……

不安を感じたりもするんです……

自分はただの弱い人間ですから……」


完璧な人間などが居る訳もなく、

人間は誰しもが弱さも脆さも持ち合わせている。

そういう部分を悪魔に狙われたら

自分も過ちを犯してしまうのではないかと

慎之介は恐れているのだ。


「慎さん……

慎さんがどんなに失敗しようが、過ちを犯そうが、

あたしは慎さんのことを嫌いになったりしないよ


むしろ失敗ぐらいならどんどんすればいいんだよ


あたしが慎さんを好きなところはね

そんなところじゃあないんだよ」


慎之介と自分は魂が魅かれ合う者同士だと

愛倫アイリンは信じている。


どんな状況であっても、空気であっても、

穏やかで優しくて、

その場のみなが思わずほっこりしてしまう、

そんな不思議な力を持つ慎之介が

愛倫アイリンは好きで好きでたまらない。


その力とは、もちろん

物理的な力の強さや術や能力、スキルなどではなく、

簡単に言えば人間的魅力とか人柄、

人望ということなのだろう。


愛倫アイリンにとっては慎之介こそが

この世界に見出した人間の可能性の光、

それを体現化した象徴的な人間の男。


人間の弱さや欠点、ごうや原罪、そんなものですら

愛倫アイリンにとってはすべてが愛おしい。


愛倫アイリン

女であり、戦士でもある

めすでもあり、母でもある

熟女でもあり、少女でもある

ドSでもあり、M女でもある

娼婦でもあり、聖母でもある


そして何より、サキュバスであり、

力弱き者にとっては女神でもある。


-


「そんなことより、慎さん

今夜もここにお泊りするんだろ?


またこの前みたいに

二人とも全裸で抱き合って寝ようよ


そうだね、もうキッスもしたことだし、

今度は全裸で抱き合って

チュッチュッしながら寝よう」


慎之介は口に含んでいた酒をふき出す。


「いやいや、さすがにそれは、

いくら自分でも、やってしまいますよ」


「それはそれでいいじゃあないか

そういう気持ちも大事にして行こうよ、慎さん」



酔って潰れてしまった慎之介に肩を貸して

ホテルまで連れて帰る愛倫アイリン


余程疲れていたのだろう、

慎之介はベッドでぐぅぐぅと

いびきをかいて寝入ってしまっている。


まるで新婚夫婦の新妻であるかのように

愛倫アイリンは慎之介の服を脱がし、

ついでにパンツも脱がしてしまう。


そしてまた自分も全裸になって

慎之介の腕の中に潜り込む。


疲れ果てて寝切っている顔を

しばし眺めている愛倫アイリン


その穏やかで優しい微笑はまるで

無垢な顔で眠っているまだ幼い赤子を

愛おしく見守る母のようでもある。


そして愛倫アイリンは慎之介の唇に

いたずらっぽくキスをした。


「おやすみなさい、慎さん」






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サキュバスは、性犯罪を許せない ウロノロムロ @yuminokidossun

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