「注意書き…」
低迷アクション
第1話
1人暮らしの男性の場合、食事は大抵、スーパーの値引き弁当か外食である。仕事に家事と来れば、そうなるのは当然だと思うが“K”の場合は少し違った。
彼は“自炊”を趣味とする男だった。なるべく食費を抑え、美味いモノを作るのがモットーなKの足は自然と業務スーパーに向く。食材も通常のスーパーより安く、同じ料理を作るにしても、かかるお金が半分以下と来れば重宝するのも当然だ。
業務スーパーは外国の商品が多く、製造元の環境や食品衛生の違いを含め、
不安視する声もあるが、食料自給率が皆無な、この国において、今更、
何を気にする余裕がある?と言うのが彼の持論だった。
そんなKのお気に入りの食材は東南アジアの、豆の瓶詰である。保存液に浸された
大豆色の豆は酸味が強く、匂いも独特だったが、彼の口に非常に合った。
炒め物にしても、米と一緒に炊いても風味が食指をそそる。また、それ単体でも、酒の肴になると言う優れもの…ほぼ毎食、豆を食べるようになった頃から“それ”は起こった…
初めは疲れているだけと思った。もしくは酒で酔っているのかとも…とにかく家に帰り、食事の最中に、人が呻く、囁くような声を耳にするようになったと言う。
やがて、その声と一緒に、ゆらゆらと蠢く白い幻のような影が視界に、部屋の中で目にし、気づく。原因は豆では?と…
だが、Kはそんな事では豆を食べるのを止め無かった。声も白い影も悪さをする訳ではない。逆に豆の味や風味は仕事に疲れた体を癒し、時には酒に酔ったような
(丁度、その時に声や白い影が見えたと言う)非常に気分の良いモノにしてくれる。
ネットの商品説明やレビューにも問題は無かった。豆の入った瓶には現地の言葉がビッシリ書かれ、その下にはどの食品にもありそうな“注意書き”だけだった。“開封後はお早めに”などだ。彼は豆を食べ続けた…
「面白いよ、この豆…」
友人に件の豆を振る舞った時の事である。原産地等の質問に、瓶を渡すと、彼は笑いながら言った。
「瓶の注意書きの所、多分、仕入れ先も、これを冗談だと思ったんだろうな。
でも、食品イメージ的には、ライト層受けじゃないと思って、訳してない。よくあるんだよ。
こーゆう事」
語学に詳しい友人の言葉は続く。
「“人によっては○〇〇が視える事がありますだってさ”ホント変わってるよ」
○〇〇とは現地の言葉で“怪しいモノ、化け物”を指すそうだ。それを聞いた後も、
Kは豆を買い続けている…(終)
「注意書き…」 低迷アクション @0516001a
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