お了さん相手に我が身の上を語るその語り口が、なんとも小気味よく一気に読んでしまった。
一茶が俳諧の道に入るきっかけも初めて知り、納得がいった。
人を引き付けるメロディさえ感じられる文章の運びは、上月氏ならではと唸るばかり。
上月氏とともに一茶をも応援しながら、この先を期待したい。
俳諧師として名を挙げようと様々な俳人と係わり合いつつ一茶の揺れ動く心模様を心憎い筆致で抉り出していく上月氏の語りに引き込まれてゆく。
15年ぶりに故郷柏原に帰った一茶を迎えたのは、継母への気兼ねから本心を言えぬ父、幼いころ受けた辛い仕打ちをそのまま思い出させる継母の振る舞い。
肉親の愛に飢えた一茶の孤独が切ない。
病に倒れた父親が、最後に一茶への愛情の証ともいえる遺言状を残して死んだ。
ここから、一茶の苦難に満ちた、継母たちとの相剋が始まるが、一茶の詠む句を味わいながら読み進めている。
とうとう、財産の半分の相続を認められた一茶!
でも、またしても江戸へと心が揺らぐ・・・。この先にどんな展開が待ち受けるのか・・・。お了さんも息をつめているのでは・・・?
小林一茶を読了。やはりお了さんは一茶の心の底にある感情をすべて読み取っていた。姉のような優しさで一茶を包んでくれるお了の父親もまた、追分から出稼ぎで江戸に出て、困難の末「信濃屋」の商いを始めた。お了はこの「信濃屋」そして父親を誇りに生きてきたからこそ、父親に一茶を重ね、一茶に寄り添って行こうとする。一茶はお了の励ましを得て、新たに俳句の道を突き進んで行くに違いない。