1-3話 スキル判明?


一通りの挨拶と自己紹介を終えた後に、トオル達は居間――にしては広すぎる部屋に向かう。


そこでは、一人の女性がソファーに座って紅茶らしき物を飲んでいた。

女性はこちらを見て軽く微笑み、




「あら、あなた。お帰りなさい。……見た事無い子がいるけどあなたの事だからうちに泊めるのかしら? 」


「あぁ、そうだ!あ、トオル、これが俺の嫁な」


「よろしくね、トオルくん」


「奥さんいたんだ……!? 」




その女性もまた美人であったのは言うまでもない。

赤く、長い髪を後ろで纏めている。

化粧はしていなさそうだったが、

それでもこの美しさである。

エクイテスは勝ち組すぎやしないだろうか。




「おはようございます、ユリアおばさん」


「おはよう、ミラちゃん。今日も可愛いわね~……でも、久々に部屋から出てきたわね?珍しいわね」


「エクイテスに出されたも同然なのですが……それに新しい客人がいらっしゃったら挨拶するのが礼儀かな、と」


「あのミラちゃんが……礼儀を……!?」


「お、おばさんまでそんな風に!どうしていつも二人して私をからかうんですか!?」




ミラはここでもからかわれている。

何だろう、三年間居候している、とか言っていたけど会話のやり取りの雰囲気はもう親子同然である。

きっと、エクイテスとユリアさんの二人の

人柄、後はミラの天性の才能なのかも知れない、とこの光景を眺めながらもぼんやり思っていると


「トオル君……私がからかわれているの見て楽しんでないですか?」


「そんな事は無いです」


「楽しんでるでしょ」


「ないです」


と、何故かこっちにとばっちりが来る。

すると、それを見てエクイテスが顔に笑みを浮かべた。


「おい、なんだよトオル!うちの娘と仲良くしてくれてるじゃねえか!良いじゃん良いじゃん!」


「いや、今だにちょっとしか話してないぞ!? 仲良いかって言われるとそれはまだ……」


「いや、うちの娘は殆ど誰とも喋らねぇからな……喋ってる時点で進歩だ、進歩。大進歩。明日は雪が降らぁ!」


「エクイテス! あんまそう言う事トオル君にまで言わなくて良いでしょ!後、娘じゃないったら……」




どうやらこのミラと言う子はコミュ障らしい。

一見、そんな風には見えないんだけどな。エクイテスとかと流れるように親子漫才してるし……と、トオルは思う。


話が進まない。


「エクイテス、話が進まない!何か話したい事あったからここに来たんですよね!!」


「あっと、そうだそうだ、つい面白くて脱線しちまった!」


「……早く話してください」




エクイテスの言葉にミラが拳を震わせながらも、何とか彼の次の言葉を促す。




「えっとだな、まぁ、嫁にトオルの事伝えときたかったと言うのと……ミラ、お前とトオルでパーティ組め。冒険者パーティ。トオルも冒険者として登録させるからよ。」


「いきなり過ぎません!?確かに、前からそんな事言われてましたけど……」



トオルとしても寝耳に水である。


しかし、この子とパーティか……と、トオルは少しだけ身構える。あまり女性と話す機会が無かったので、少し不安であった。


嬉しい事には嬉しいのだが。




「まぁ、私も冒険者でありながら殆ど仕事できてませんし、このままではずっとエクイテス達のお世話になるままなので……

そろそろ働きたいなとは、思っていましたが」




何だかニートが働こうとしているのを見ているようである。




「今ニートみたいって思いましたね。」


「思った。」


「思ったんですね……」


それよりトオル的にはニートと言う言葉がこちらの世界にもあるのが驚きだった。誰かこちらの世界の人間が広めたのだろうか。


「で、トオル君としては私とパーティ組んでも大丈夫なんですか?と、言うかトオル君の力量がわからない以上不安なのですが。もし彼に何かあったら……」


「ああ、大丈夫なはずだ!何て言ったって

トオルは異世界人!

多分強い。強いはず。強いと思うぜ!」




と、何の根拠も無い事をエクイテスが言ってくる。


トオルは戦った事も無いのに、だ。


確かに女神らしき人にカミノチカラは貰っていた。しかし、それが戦闘向きかもわからないのだ。


「エクイテスさん、俺戦った事無いよ? 貰った力も役に立つのかまだわからないし……」


「ん? そうなのか? でも俺の目からするとお前ってかなりとてつもないウルトラスーパーデラックスなポテンシャル秘めてるんだが……」


「急に横文字! でも、わからない以上何とも言えない」


そう、何とも言えないのだ。やはり、あの女神の職務怠慢である。もし今度会う機会があったら説教したい。




「そっか……まぁ、じゃあ最初のうちは俺も付いていくし。

ヤバかったら手助けするぜ! それに、いざとなればミラもいるしな。こう見えてミラは

天才なんだぜ?」



なるほど、エクイテスも戦えるのか。


後、天才と誉められて顔を赤くするミラが可愛い。



「じゃあ、取り敢えず俺は冒険者になるって事でいいのか?ってか冒険者ってどうやってなるんだ?」


「ああ、さっき見たギルドに行って

登録すればすぐだぜ。

そうだな、今から行こうか!」




そんな訳で、冒険者ギルドと呼ばれる所に行く事となる。




※※※※※※※※※※※※※※※※




冒険者ギルドは恐らく冒険者達でごった返していた。


所々で笑い声が聞こえたり、金貨を袋から出す音が聞こえたり。


昼間から酒を飲んでいる人もいた。




(やっぱ異世界ファンタジーのテンプレって感じだな……)




見事に期待を裏切らないギルドに感動しながらも、トオルとエクイテス、そしてミラは受付に行く。




「毎度ご利用ありがとうございます……あ! エクイテスさん! お久しぶりです! 今回はどんなご用件でしょうか! 」


「おう、デイジー! 久しぶりだな! 

今日はちとこいつ、トオルの冒険者登録を

してやりたくてな!」


と、エクイテスと受付の金髪の女性が親しげに話し合う。


「エクイテスさんって顔広いんだね」


「そうですね……エクイテスは世界中に顔が知られてると思いますよ。」


「え、凄くない? ……世界で一番有名な無職か」




まだ談笑しているエクイテスの後ろでミラと話す。


と、話している内に談笑が終わったらしく、デイジーと呼ばれたお姉さんが仕事モードになっていた。




「……えーっと、それでトオルさんの冒険者登録ですね!

年齢と、名前をここに記入して頂くとこちらのカードにスキルなども自動的に記入されますよ!」




何気に凄いカードだ。

ゲーム世界では当たり前だったようなお約束を再現している。


(ってか、これで俺が貰ったスキルもわかるじゃん!)


そう、これはトオルに取って大進歩であった。

ステータスオープン!とか言ってステータスが見えるんなら便利なのだが。

まぁ、現実は甘く無いと言うことか。


トオルは言われるがままに年齢と名前をカードに書き込む。

すると、カードが淡く光り始めた。


「はい、ご記入ありがとうございました!


えっと、スキルの確認を……あれ? 」


「どうしたんです? 」


「いえ……スキルの欄が黒く塗りつぶされているんです。何でしょうか、これ……」




スキル欄が塗りつぶされている。

よくわからない。どういう事だろうか。

スキルは判明しない、と言う事だろうか。


と、エクイテスが身を乗り出してきて、


「スキル欄が黒い?そんな事ねーだろ……ってうわ!なんじゃこりゃ!黒すぎだろ!」


「わ、私にも見せて……え?なにこれ!? なんですかこれ!」


ミラとエクイテスも驚きを禁じ得ない様子。

だが、一番驚いてる、と言うか憤ってるのはトオルである。


「あの女神……」


そもそも、女神から貰ったスキルが黒くて見えないとはどういう事か。

魔王やら何やらを倒す前にあの女神を問い詰めた方が良いのではないか。


「取り敢えずスキルが黒いってのは初めてだが……これも、トオルが異世界人だからなのか?」


と、エクイテスがぼやくと

急に今まで酒を呑み笑いあっていた冒険者の一人が振り向いた。

スキンヘッドの、いかにもチンピラと言った感じの男だ。

その男はこちらを馬鹿にするように、




「へえ……お前、異世界人なのかよ。


じゃあ、さぞかし強いんだろうな?それこそ、あの封魔の洞窟の魔物も倒せちまうぐらいによ。

おい皆! このガキが封魔の洞窟の魔物倒してくれるってよ!」


途端に、この男と同じテーブルにいたガラの悪そうな男たちも騒ぎ出す。

皆一様に笑っているが、それは嘲笑と呼ぶべきものである。

面倒な奴らだ、とトオルは心の中で舌打ちする。

が、何か言い返そうと口を開きかけると――




「おい、その辺にしておけよお前ら。いくら俺が温厚でも、流石に子供を危険な目に合わせようとするやつは許せねーぞ。」


「あ?ああ、あんた確か……エクイテス、だっけ?お前にそんな事言う資格あんのかよ?」


「そりゃ、どういう……」


と、そこでチンピラは一瞬間を置き、その顔に下卑た笑みを浮かべて――






「だってそうだろ?元冒険者で……



【見殺しの英雄】――エクイテス、さん?」








エクイテスに向かって、そう言いのけたのであった。

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影と織り成す異世界物語 赤蒟蒻 @aka_konjac

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