1-2話 純白の少女

なんだか、急にファンタジー感溢れる単語が出てきた。


 魔王と影が蔓延る光の世界……


 ん?矛盾してないか?と、トオルは思った。






「魔王に支配されてるってのはわかるんですが、光の世界だのなんだのってのは……」




「ああ、そこらへんはこう、創世記とか読ませてやるよ……ってトオル、この世界の


 文字とか読めるのか?言葉は通じるみたいだが。


 あ、じゃああそこに書いてある文字読めるか?」




「冒険者ギルド、って書いてありますね。てか、冒険者ってやっぱ職業としてあるんだ。


 おらワクワクしてきたぞ!」




「急に喋り方変わったな!冒険者になりたいなら後で手続きしような。


 しかし、文字も読めるのか。異世界とは色々違うらしいが、不思議な物だよなあ」




 確かにそうだ。


 あの女神が何かしたのだろうか?


 いや、それはなさそうだ……と、自問自答を一瞬で終える。


 あの女神、悪気はあったと思いたくないが説明不足すぎだし、恐らくそういう細かい所に


 気が回るタイプでは無いだろうな、と言うのがトオルの印象だ。


 残念な女神である。




「……と、そうだな。トオル、これからどうするかの予定も無いだろ。


 取り合えず、俺の家に暫くは泊まると良いさ」




「え?良いんですか?」何という好待遇。




「大丈夫大丈夫、記憶喪失だからってもう三年も泊めてる奴もいるしな! はっはっは!」




「三年泊ってたらそれはもう居候ですよ!」




「そりゃそうだ!てかトオル、無理に敬語じゃ無くてもいいぜ?もう俺とお前は親友だ!」




「親友認定早い! 人類皆親友だろそんなんじゃ!」




 人類皆親友か、そりゃあいいな!と、またしてもエクイテスは豪快に笑う。


 本当に豪快が服着て歩いているようなオッサンだ。




「ところでエクイテスさんは仕事何やってるんだ?」




「俺か? 俺は今現在絶賛無職のただのオッサンやってるぞ!」




「無職だとっ!?」




 急にこれからの生活が心配になるような会話をしながらも、


 二人はエクイテスの家に向かうのであった。




 道中、トオルには軽くこの国とかの事とか説明しておくか!とか言われ、


 講釈を受ける事になった。


 要約すると


 ・この世界では魔物が出てくる。なのでそれを狩る冒険者などの職がある。


 ・この世界、ルークスは一つの大きな大陸と複数の島で出来ている。


 ・主要な国は5か国あり、この国はその内の一つ、「ヴェリタス王国」である事。


 ・ヴェリタス王国は君主制。


 ・魔法もあるよ


 ・魔王もあるよ


 ・数百年前に魔王と呼ばれる物が誕生し、人々を苦しめている。


 ……大体こんな感じらしい。


 詳しいことは生活してる内にわかるさ!とエクイテスが言っていた。


 まあ、ゲームのような物と考えれば苦では無いか……。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※






「うーい、着いたぞー。ここが俺の家だ!」




「……デカくね!?」




 家、と言うよりは豪邸や屋敷の類である。


 無職なのにこんな家に住んでいるとは……と、トオルが呆然としていると


 待機していた執事によって屋敷の門が開かれる。




「お帰りなさいませ、旦那様……。その方は?」




「おう、ご苦労さん! こいつはトオル、異世界人って奴らしいぜ。


 当分の間、うちで預かるから宜しくな!」




「――異世界人、ですか。……ふむ。確かにその特徴を有してますな」




 サージカルは60は越えているであろう執事だった。


 年の割には茶色い髪と、立派な髭がどうかするとエクイテスより旦那様感を漂わせる。


 その鋭い眼光はジッとトオルを見据えている。


 思わず、トオルはたじろいでしまった。




「あー、サージカル。物珍しいのはわかるが、あんまりジロジロ客人を見るのはよせ。


 コイツは特に、この世界の事――まだ、詳しく知らないんだし、さ」




「……これは失礼致しました。トオル様、とんだご無礼を……」




「い、いえ、大丈夫ですよ」




 とは言ったものの、トオルの心境は穏やかでは無かった。


 何せ、今の視線の中に――明らかな、「敵意」が含まれていたからだ。


 何故――そう思っていると、エクイテスがトオルの頭にポン、と手を置いて言った。




「すまんな、うちの執事が……サージカルは異世界人に、ちと因縁があるんだ。


 まあ、この世界では地味にそういう奴が多い。先人の一人が色々やらかしてるせいでな」




「でたよそういうの……一人のせいで他の多数のイメージ悪くなるんだよな……」




「……ああ。実際、その通りだ。この世界では他にもそういう事が多々あるからよ。


 でも、トオルにはそこだけを見てこの世界を判断して欲しくは無いわな」




「……」




 と、なんとも微妙な会話をしながら屋敷の中を歩く。と、エクイテスが一つのドアの前で


 止まる。どうやら、この部屋に用があるらしい。


 そのドアを軽くエクイテスがノックする。




「おーい、ミラー! いるか? いるよな?」




「いませんよ」




「おっと、答えた時点で俺の勝ちだ!なんで負けたか、明日までに考えといてくれ!」


「多分おじさんが私の所に来たせいです……それで、今回はなんの用件でしょうか。」




 中から聞こえてきたのは可愛らしく耳心地がいいが、少し気だるげな声。


 その声から女の子であるとトオルは判断する。




「あれだ、今日から新しくこの家に無期限で人泊める事にしたからお前も挨拶しとけ!


 喜べ、珍しく年が近いぞ! ……トオルって何歳だ?」




「17だよ」




「17だってよ! 16歳と一歳しか違わないな! 仲良くしてやれ!」




 と、エクイテスはポンポン話を進めていく。


 いや、歳が近いからって急に仲良くするのは無理があるだろ。


 と、トオルが突っ込もうとすると


「年が近いからって急に仲良くするのは無理がありますよ……


 エクイテスじゃないんですし……」と言う声が返ってくる。




 同じ思考回路のようだ。てか、普通はそうだ。




「いや、トオルは良いやつだから。俺のマブだから安心しろ!


 ってなわけで出てくるがいい、我が愛しき娘のミラよ!」




「あなた誰とでも親友になるじゃないですか!


 それに娘じゃありません! 三年間居候してるだけです!」




「じゃあお前は三歳児だな!」




「なに言ってるんですか!? ああもう、出ますよ、出ますから……」




 なんだかエクイテスのおっさんのツッコミ役にされてて可哀そうな子である。


 しかし、同時にエクイテスの人柄もミラと言う子のノリも伺える


 微笑ましいような光景であった。


 と、目の前のドアが静かに開かれる。




「お待たせしました。……あなたがトオルさん、ですね。


 私はミラって言います。よろしくお願いしますね」




 そう言った女の子――ミラがニコっと笑った。


 ――正直な所、凄い美少女が出てきた物だ、と思った。


 あまりにも綺麗な純白の髪を肩より少し下に伸ばし。瞳は天空を映すかのような水色。


 細くしなやかな腕と白いきめ細やかな肌。


 整った顔立ちはどこか幼さを感じさせるも、年相応の美麗さも持ち合わせていた。


 身長は150後半くらいであろうか。




 あの女神に負けるとも劣らない、そんな美貌であった。


 異世界の女性は、顔の作りがチートである、とトオルはつくづく思うのであった。




「よろしくお願いします……ミラさん」




「どうしたトオル、ミラに見とれてたか?無理もない、俺が言うのも


 アレだが、美少女だしな!」




「いやそれエクイテスさんが言ったら本当にアレだよ!? 一歩間違えば


 この家に三年も居させてるのも犯罪だからな!?」




 なんだかすっかり固さも取れてツッコミを入れてしまう。


 と言うか、事情あるとは言えおっさんとこの女の子が一つ屋根の下で暮らすのは


 不味いだろ……等とトオルが思っていると




「うん……トオル君もこれからエクイテスに苦労させられそうですね……」




 と、目の前の少女――ミラに、苦笑いされたのであった。


 苦笑いすらも、可愛い。反則であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る