第一章
1-1話 女神よりオッサンが頼りになる異世界
目が覚めると、そこは異世界でした。
なんて、そんな事本当にあるわけ無いと思ってた。
それらは全ておとぎ話の、というか昨今のラノベだけだと思ってた。
大体、死んだら神様がチートくれて、異世界でハーレムして、魔王倒して、
はいハッピーエンド。
そんな物語、あるわけがない。何もしてこなかった奴が楽をする。
そんなご都合主義あってたまるか。
――でも、やっぱ少し羨ましい。
そんな事を考え、日々を無為に過ごしているのが薄井 透であった。
それは、突然の事であった。
「薄井透さん。お気の毒ですが、あなたはこの世を去る事となりました。
あなたには選択肢があります。次回の人生も、この地球に生まれ落ちるか。
それとも、こことは違う世界に肉体と魂を引き継ぎ生活するか、の二つです」
いきなり視界が真っ暗になり、次の瞬間、聞こえてきた声がこれだ。
声は憂いを帯びた美声で、声の主が女性であることが容易に想起された。
しかしそれよりも内容が内容だ。たった今、透は命を落とした、と宣告された。
無論、動転しないはずもなく
「え!? なんで!? 何で俺死んだの!?」
と、叫んでしまう。
「……聞かない方がいいですよ。」
と声の主は短く、悲しげに言った。
そんなに惨い死に方をしたのだろうか、思わず身震いしてしまう。
死んだから身体、もう動かないらしいけど。そこは言葉の綾だ。
それよりも透には気になる事があった。
もちろん、先ほど告げられた選択肢「異世界転移」の事である。
と、同時に何でこんな暗いんだ、これでは恐らく声の主としてはこういう時定番の
女神の姿も見ることが出来ないじゃないか、と憤慨した。
と、
「ええと、私としては異世界転移の方でお願いしたいのですが……実は、異世界に転移してくれる人って全然いないんですよ……」
「え、なんで?」
「異世界がやはり、恐ろしいのだと思います。魔物や魔王も存在しますし……
皆さん、そういった世界は創作だけで充分だ!とばかりに……」
なるほど。理解できる話である。
しかし透としてはやはり異世界にいってみたい!というのが本音であった。
もともと、空想で夢見ていた事だ。
「いいですよ。俺、異世界転移で」
「本当ですか! ありがとうございます! あ、そうだ、転移の場合だと能力のボーナスを与えることになっております!
少々お待ちください……」
なんだか、声だけで笑顔になった事がわかるようだった。
とても可愛い声だ。きっと、顔も可愛いんだろうなあ……
「ところでここ、凄く暗いんですが……女神様は不便だったりしないんですか?」
「え?ああ……私は暗くても見えるので大丈夫ですよ。それに……」
「それに?」
「暗い方が、影があった方が落ち着きますから。」
と、あまり感情の籠らない声が返ってきた。暗いところが好きとか女神らしくない
と思いながら透は能力のボーナスが与えられるのをじっと待っていた。
「――お待たせしました。では、あなたに力を与えましょう。
あなたに――――――」
「カミノ チカラヲ」
え……?
神の力ってどんな能力よ……?何か凄そうだけど!
いやいや、それより急に声から感情消えたな!とか思ってると
ふいに目の前が眩しくなった。黒い部屋は、真っ白な部屋となり、そして――
目の前に現れたのは、絶世の美少女。
長く伸びた艶のある黒髪を腰まで伸ばし、純白に金の刺繍が印象的な
神々しいローブのような物を身に纏っている。
紅い瞳は憂いを帯びている物の、その輝きは透を射抜いていた。
まさに美を体現している。
思わず息が止まった。時が止まったようにさえ思った。
「それでは。あなたの織り成す物語に、幸運がありますように!」
その少女―――おそらく、女神様とやらは穏やかな微笑を口にたたえながら、透に
手を振る。
次の瞬間、視界が更に真っ白になり―――
※※※※※※※※※※※※※※※※
目が覚めると、そこは異世界でした。
目の前には中世風の街並みが広がっている。行きかう人々の恰好もいかにも、と言った
感じであり、大剣や弓、魔法の杖らしきものを担いでる人もいる。
何より、猫耳が生えてる女性もいたり、二足歩行の犬、コボルトのような人(犬?)
も街中を闊歩しているのだ。
「凄いな……ここが、異世界ってやつか……」
などと、透が感慨にふけっていると、唐突に目の前に一人の男が立ち止まる。
「おい、兄ちゃん!」
「え? あ、俺? はい! 何でしょう?!」
「お前さん……今どこから現れた……?」
「……え」
まずい、なんかサラッと流してくれない村人Aにぶつかった!
こういうのって普通は特にお咎め無しでしれっと入りこめてる物じゃ無いのか!?
って言うか、日本語通じるんだ!良かった!安心!
と、トオルが混乱し、頭の中が真っ白になってどう答えようか考えていると
「兄ちゃん……まさか、その黒髪と黒目……『異世界人』って奴じゃ無いか?」
まさかの『異世界人』がこちらの世界で認知されている事実を知ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「いや、異世界人か。噂には聞いていたがまさかこの街に来るとはな!」
と、先ほどの男――短く刈った青い髪に、同じような青い目の、ガタイの良い
40代くらいの男が豪快に笑いながらもそういってきた。
なんでも、自分よりも先に転移している日本人はいるらしい。
その先人達がやたら有名になる程の功績を残し、更に転移してきた者は
皆黒髪黒目であるため、この男も透が異世界人であると推測したのだとか。
ちなみに、日本出身だろ!とも言われて非常に驚いた。どこまで知っているのだ。
「なんせ、みんな揃って日本だとか東の果てから来たとか言うんだもんよ。
同じ特徴持った奴がいたらそう思うのも当然だろ?なあ、兄ちゃん。
ところでお前さん、何て名前なんだ?」
「薄井透って言います。」
「ウスイ・トオルか!宜しくなトオル!ちなみに俺の名前はエクイテスって言う!
名前で呼んでくれて構わんぞ!」
凄く気さくで、わりと距離感の近い壮年の男性である。
実を言うとトオル的にはあまり得意なタイプではない。が、この異世界について
何もわからないトオルとしてはこのオッサンはありがたい存在であった。
「あの、一つ聞きたい事があるんですけど……」
「おう、なんだ!俺にわかる事だけ聞いてくれよな!」
「そんな事言われても……あの、この世界ってどんな世界、何ですか?」
と、トオルは先ほどから疑問に思っていたことを口に出す。
あのトオルをこの世界に送った女神とやらは何も説明してくれなかった。
チート貰うとか以前に聞いておくべきだった、いや、説明も何もしないあの女神の
職務怠慢だ、俺は悪くない……はず。などと心のなかで愚痴った。
「そっか、兄ちゃん……トオルはこの世界の事知らないよな?
あり?おかしいな……前に転移した奴は女神から説明されたって言ってたが……
まあいいか、この世界、か……。なんて言えば良いのやら……」
と、エクイテスは何故か少しため息をついた後、こういった。
「この世界は……魔王が支配し、影が蔓延る光の世界。
【ルークス】って言う。トオル、この世界に来たからには覚悟してくれ」
などと、今後の展開が不安になるような事を言われたのであった。
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