Ⅲ ライバルっぽい関係ってややこしい

「…来たか」

「ああ、来たが。藍沢瑞汐」

部下も来たんだな」

「せいぜい虐めて可愛がってやってくれ」

「えッ…ちょ、凪薙さぁん…!」


誘拐犯に連れ去られた子供如く、藍沢の手から逃れようとするが、がっしりと襟首を掴まれてどうにもならない状態であった。



大人数で移動する、靴が擦れる音が聴こえた。


会議室の扉を蹴破る様に入って来たのは、輩野洲はいやす海人菟あまつ瑞汐だった。


彼は常に寡黙である。

しかし、鬼に対する感情や、仲間意識は、誰よりも強いと言っても過言ではないだろう。


「……これから“枇杷”の対策及び、今後の動きについての会議を始める」


虚ろな声が、会議室に響く。


「枇杷は、計60体の女性を喰らっています。それに伴い、過去最高の記録で捜査官を葬っているとされています。鬼同士で近づくことも度々ありますが、一種の共喰いと判明しています。

火炎術を心得ているので、今回用意した刀で対峙をお願いします」


私達が所持している武器は、捜査官のみ所持が認められていて、製造過程は極秘である。

鬼は日の光を嫌っており、日を良く浴びた鉱物を使用した日種の剣ひだねのつるぎを、私たちは使用している。

今回は、火と対になる水性の刀である。


そこで、藍沢瑞汐が面倒臭そうに反論した。


「我々の所持している鬼十伐キトウは、各奇術に対応しているはずです。新しく刀を所持しなくてもいいのでは?」

「此れはギミック加工も施してあります。それに、枇杷はこの世に存在するはずのない“桟東流さんとうりゅう”を心得ています。対峙経験のないあなた方には此方を使用するべきかと」


間髪入れずに質問に答える。

正に言うこと無しの答えを突き付けられた藍沢は黙り込んでしまった。


「では、これで終わります。枇杷の資料は各チームで共有するようにしてください。解散」


机の上に置かれた、アタッシュケースに入っている新しい鬼十伐キトウを持つと、蟻の子を散らすように会議室を後にした。

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異種の漆黒の魂は何を喰らう? 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

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