Ⅱ 哀悼の意味は知らない

わたる、行くぞ」

「ちょっ、待って下さいよ!うわぁ!?」


亘は何も無い所で躓き、すってんころりんと足を滑らせる。

落ち着きの無い奴め、と私は心中でぼやく。


私が鬼を初めて見た時から11年経ち、対策会あっちから声を掛けられ、特待生として専門学校に入学、僅か2年でこの仕事に就いた。


今は1歳の差しかないが、部下のたかどのわたると共に仕事をしている。

彼も飛び級スキップこの階級いまに辿り着いた。


彼は幼子の名残がある顔つきで、所々抜けている所があるが恨めない。

身長は私より一頭身は大きい(私が小柄なだけなのだろうか)。


亘は私の事を「凪葵ナギさん」と呼ぶ。

私には身寄りがあまり居ない。彼がそう呼ぶ度に、違和感を覚える。


私はこの立場でいいのか、と。


会議に向かう途中、上司のたつみ誠斗せいとと居合わせた。

髪の毛は「あの時」と変わらず白銀に輝いている。

彼は感情をあらわにしない、冷静な人。


「巽さん」

凪葵ナギか。どうした?」

「この間借りた本、ありがとうございました」

「ああ、あれか。もう読んだのか」

「ええ。そういえば、詩集、読みたいって言ってましたよね。よかったらどうぞ」

「おお、ありがとうな」


相変わらずの無表情。

口調だってやけに虚しい。


「では失礼します」


「亘、資料には目を通したか」

「はい、枇杷びわの件ですよね。ここ最近、女性が失踪する件が増えているので、奴の仕業ではないかと…」

「そうだ。他のチームと合同で捜査する事もある。怠るなよ」

「まさか…藍沢アイザワさんとですか…?」

「男が喚くな。見苦しい」

「ヒィィ……またシバかれる……」


嘆く亘を放って、私は一人進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る