第14話 違和感
「もしもし、初めまして。
清宮からはすぐに連絡があった。金川先生によろしく、ということと今度私たち夫婦と飲みに行きましょうといっていた。
「いえ、こちらこそです。それで話というのは具体的には何でしょう」
声質からして二十代の男性だろうか。その割にはかなり落ち着いている。
「虐待の疑いがある児童がいます。すぐに児童相談所へ連絡したいところですが、虐待の確証がありません。そこで学校での様子をお伺いしたいのです」
「なるほど…しかしそれなら児童相談所を頼るべきではないでしょうか?」
うん、ごもっとも。
「問題は勧告した後のことです。虐待の事実が認められなかった場合、児童相談所側は少なくとも監視対象として見てくれると願いたいですが、もしそれで安心されてしまわれたら困ります」
「児童相談所の怠慢…ということでしょうか?」
「そこまでは言いません。しかし、なにかあってからでは遅いです」
向こうがいったん間をおく。
「…分かりました。こちらも夏休みで部活はありますが、話をしっかりとお伺いしたいので一度お会いすることはできますか?」
「ありがとうございます。そしたら午前の部活が終わったあとに一緒に食事でもどうでしょうか?」
「食事ですか。まあ構いませんよ」
ちょっとだけ嫌そう。まあいきなり一般人にそんなこと言われても困るよね。
「ところで」
金川先生が切り出す。
「沖田先生が
…清宮め。余計なこと言ったな。
「たったの一年なので働いたとは言えないですよ」
「それでも働いていたのですよね?」
「まあ…はい」
「その話もぜひ、詳しくお願いしたいです」
なるほど。清宮もこの話題なら釣れると踏んで
「はい。本当に大した話はできなさそうですがそれでも良ければ」
「ええ、こちらこそ。それでは—」
具体的な日程をつめてその日は電話を切った。
驚いた。真ちゃんが家へこなくなってから、三日。
まさか、またきてくれるなんて。
真ちゃんは三日前と変わらない、少し困ったような顔をしながらひょっこりあらわれた。
このとき、俺は少し油断した。ああなんだ、少し予定が合わなかっただけか。ただ近所に遊びにいくことになんの義務があるのか。俺も毎日会えることがうれしくなって、相手に期待していたんじゃないのか。
虐待と思われる個所は見受けられるけど、自分の観察能力を過信しすぎているんじゃないのか。
『自分が感じた違和感をそのままにしないこと』
俺が空太郎に言い続けていたことを一番守れていなかったのは俺だった。
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