第11話 再会

「それでは、呼ばれた受験番号の受験生は荷物を置いたまま、移動をお願いします。では0631番から0660番」

順々に受験生が連れていかれる。

昼食を挟んだあとに特別試験、面接の流れ。ということは昼食は別の部屋でとるというわけだ。

「次。0721番から0750番」

自分の番号が呼ばれる。というか、この並びは—

案の定、左後ろのイケメンがすっと立ち上がる。…やっぱりお前もか。

以前の特別試験は討論やリレーだったと言われているが、どちらもチーム戦であった。リーダーシップや協調性を測るという点において個人戦というのは試験の趣旨とずれてしまう。おそらく今回もチーム戦であることが予想される。つまり、このイケメンとは仲間になるか、敵になるかの二択ということだ。

あわよくば敵になりたいものだ。サッカーは引き分けだったが、個人の能力では上ということを証明させてもらおう。というか、勉強くらいゆずってくれ。

試験官に連れられながら俺たちは廊下を歩く。歩きながらそっと考える。

まず想定されるチーム数だが、30人というかたまりであることから、2チームか3チームが予想される。あとは5か6チームか。10チームや15チームというのは1チーム当たりの人数が少なすぎる。協調性もくそもないので、除外。

1チームの人数が多ければ多いほど、リーダーとして全員をまとめるのは難しくなる。ましてや、初対面かつ受験という面では敵である人間の言うことなんて簡単に聞いてもらえるとは思えない。

そういった面では、先のイケメンくんとは同チームでありたい。かつ俺の下で働いてもらおう。


さてそんな空想に花を咲かせていると「2-4」とかかれた教室につく。先に呼ばれたグループはどうやら「2-3」に案内されたらしい。

「中に入ったら好きな席に座って各自昼食を食べ始めてください」

一番先頭を歩いていた俺は教室の中を見て察する。

10人3チームね…

10の机で構成された島が3つ。全員に黒板が見えるようなコの字に配置されていて、それぞれの机が相向かうように並べられている。また、教室の後ろにはパーテーションがスタンバイしている。

俺はとりあえず、全体が見渡せる廊下側のいちばん前の席を陣取る。心理的にも端から座っていきたいところだった。

すると俺のすぐ後ろを歩いていた女子は真っ先に窓側の一番前の席を陣取る。…なんというか、一つ一つの所作が強い。目つきや雰囲気から圧倒的な自信を感じる。あと、見た目が強そう。いやゴリラ的な強そうじゃなくて、女社長的な意味でね?

普通教室をきょろきょろしながらおっかなびっくり席につきそうなものだが、彼女は迷うことなく真っ先にその席を選んでいる。

「座っていいですよ」というような言葉を待ちそうなものだが、そんなもの関係ないわよと言わんばかりの着席。

当然、俺とは別の島だが、間を挟んで相向かう席であるため目が合う。

すると—

「ふっ」

「…」

微笑まれた。

…これは恋とかじゃなくて、獲物を見る目ですわ。母さんの攻撃スイッチが入ったときのような目。なんか俺スイッチ押したのかな…

女の人って攻撃していい相手にはとことんやるからなあ…気をつけよ。

続々と受験生が部屋に入ってくるが、なぜかみんな女社長の島へとなだれ込んでいく。あれぇ?なんか俺、陰キャオーラでも出てるのかな?

とりあえずやることもないので、女社長の島を観察していると『ふわふわハムスター系女子』が社長に近づいていく。

「あっ!恵美子ちゃんだ!」

「あら、優ちゃんじゃない。久しぶりね」

「うん!中体連ぶりだね!」

「そうね。あなたも全日ぜんにちだったのね。お互い頑張りましょう」

「うん!」

すると今度は気だるげな『見た目はヤンキー心は純情系女子』が近づいていく。

「あれー?エミーじゃん。何やってんの?」

「佳乃。エミーはやめてって言ってるでしょ。試験を受けにきたのよ。あなたこそよくここにいるわね」

「どういう意味だし。私、やればできる系で売ってるからさー」

「はいはい。分かったからご飯食べましょう」

というようないかにも女子な会話に花を咲かせている。

どうやらあの女社長、相当なやり手らしい。

気付けば、女子の取り巻きがあっという間に島を埋め尽くしていた。

くそっ!くそっ!俺も女子と仲良くしたい!あわよくば、携帯電話のひとつくらいは持って帰りたい!

…いけないいけない試験中だった。心の中の男子中学生をなだめる。どうどう。

そんなこんなで「お仲間まだかな~募集中なんだけどな~」という気持ちで待っていると。

「…」

目の前にイケメンが座る。…いや、お前かい。

「…」

しかもなにも言わねえ…仕方ないのでこちらから会話を切り出す。

「あれ?たしか、伊勢崎第五中いせさきだいごちゅうのフォワードだったよね?全日ぜんにちだったんだね!今日はよろしく!」

もてる限りのコミュ力全開で話しかける。すると、

「…神戸一中こうべいっちゅうのディフェンスはお前だったんだな」

と言い始めた。えっなにその「ディフェンス=俺」みたいなの。照れるんですけど。

「いや、俺と一緒に組んでたやつが優秀だったんだよ。ほら、キャプテンマークつけてたやつ。というか、よく覚えてくれてたね」

「県で唯一勝てなかった相手だからな」

「勝っても負けてもないけどね」

「それでも一点もとれないのは屈辱だった」

うわあ。根に持つタイプのイケメンだ。

「たまたま運が良かったんだよ。実際ずっと攻められっぱなしだったわけだし」

「それでも最後の一歩だけは絶対に踏ませなかった」

「たまたまだって」

うーん。このままでは埒が明かない。

「とりあえず、座ってご飯食べながら話そう?」

「…ああ。聞きたいことがたくさんあるんだ」

なにこれ口説かれてるの?そんな整った顔でそんなこと言われたら惚れてまうやろ。

イケメンが俺の前に座ると後続の女子が何人か俺の島に流れてくる。イケメンパワーすげえ。何よりもこの短時間でイケメンを探し出して近づいてくる女子すげえ。


最初は女社長の島に人口が流れ込みまくっていたが、見渡せばだいたい満遍なく生徒が散らばっている。座らないという選択肢はないので、必ずどこかの島に行くことにはなるのだが。

最後の数人が教室に入ってくる。すると—




真っ先に目が吸い寄せられる。

見間違うはずがない。間違いなくあの子。

きれいな黒髪はさらさらと肩を撫でている。

身長はさほど伸びてはいないらしく、俺とは頭一個分くらい差がありそう。

あの頃はおどおどしていた目線が今はまっすぐ前を見据えている。

雰囲気は変わった印象だが、間違いない。

甘美な夏の思い出には必ずあの子がいた。

俺と、奏と、彼女の楽しかった夏の思い出。

それでも、あの子は—


しんちゃんは虐待されていたはずだ。

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