第10話 試験開始
あいかわらずでっけえなあ…
ここへ来るのは学校説明会以来二度目。
大まかに三つの区画に分かれていて、それぞれの学年ごとに校舎が違う。
今回の受験は受験番号ごとに三つのまとまりに分けて、まとまりごとに校舎へ振り分けて試験を行うらしい。
俺の受験番号は〔0721〕。掛橋は〔1898〕だった。
掛橋とはそもそも受ける校舎が違うため、すでに別れている。
案内された講堂にはすでに多くの受験生が受験番号ごとに座っているようだ。案内に従って自分の席につく。ざっと周りの席を見わたすと、だいたい200人ぐらいか。三つの校舎に分けた後、さらに三つの講堂に分けたようだ。すると—
背中の方から視線を感じる。正確には左斜め後ろあたり。
そっとそちらを盗み見ると、めちゃくちゃイケメンの男子と目が合う。体格もすらっとしていて大きめ。
しかし、ちょっと目があったと思うとすぐに逸らされてしまった。これが恋ってやつか…
しかし、何も関係のない他人がそんなにじろじろと見つめてくるわけもないので、自分の過去に出会った人データベースに問い合わせる。
イケメン、泣きぼくろ、高身長…
するとすぐに一人の人物が浮かび上がる。
(ああ、決勝リーグにいたフォワードだ)
確か、
基本的に空中戦では勝てない圭仁のおかげで、俺があのイケメンとマッチアップしていたから覚えていた。圭仁は
『おいおい…イケメンであの身長とかズルくね???』
『地上戦で俺に勝てると思うなよなぁ…』
『ぜってえ負けんなよ、お前だってイケメン(笑)なんだから』
と言いたい放題言っていた。あの野郎…
イケメン(笑)の力でなんとか無失点で切り抜けたが、決勝リーグでは間違いなく一番の攻撃力をもっていた。
しかし—
高身長、イケメン、運動◎そして勉強もできちゃいますか…
天は二物を与えずって嘘っぱちじゃねえかよ。神はちゃんと仕事しろ。
受験者がほぼ全員そろう。僅かに見受けられる空席はおそらくインフルエンザや公共交通機関のトラブルであろう。お疲れ様です。
講堂全体の雰囲気も浮ついていた雰囲気から、徐々に引き締まった空気へと変わっていく。すると—
「おはようございます。それでは全日本群馬高等学校の二次試験を開始します」
試験開始のアナウンスが響き渡る。
「受験票と筆記用具のみを机の上にだしてください」
そういったアナウンスの間に二枚の紙が配られる。
最初の試験はクレペリン検査。正式名称は「内田クレペリン検査」で、ランダムに羅列された数字の隣り合った数を足した和の一桁目をその間に書く、といったテスト。例えば、「893810」のような数であれば、「72191」といった具合だ。
15分で2セット行い、1分ごとに次の行に移っていく。
この試験で見ているのは、作業量や正確性はもちろん、作業曲線という「最初はたくさん解けて、中盤下がって、終盤に盛り返す」という曲線からどれだけ乖離しているか、という点をみている。
例えば集中力がない人や、我慢が続かない人はこの曲線が乱れやすいと言われている。
ただ、無心に、正確に、早く。
俺はそこまで対策はしていないし、練習する価値もないと思っているので、過去に一回やっただけだ。
試験内容の説明の説明が終わる。
「それでは、始めます」
受験生たちが一斉に動き出す。
単純計算の能力は正直自信しかない。
奏と買い物に行くといつも会計が終わる前に合計金額を言われて、いつもピタッとあてるものだからその姿がかっこよくてずっと真似していた。
おかげさまで今でも会計前に計算する癖は抜けないし、計算能力もかなり鍛えられた。
集中しているともう1枚目の半分が過ぎようとしている。
作業曲線も申し分ないし、いい集中力を保ててはいる。
しかし、さっきから気になっていることがある。
トン、トン、トン、トン…
…またか。
隣を過ぎ去っていく黒服の背中を見つめる。
やたら試験官の巡視が激しい。
ただでさえ、このテストはカンニングのような行為は無意味だし、計算機を使おうにもそのほうが余計遅くなる。というか、一桁の足し算ができない人間がここにいるわけがない。
それだというのにまるでシャトルランをするかのごとく、試験官は列を往来している。
集中力を見ているとだけあって、集中を乱しにきているのか…?
しかも、一定のリズムではなく、たまに近くで止まられるとたちが悪い。さすがに気になってしまう。
それでも問題なく理想的な作業曲線を作り上げる。この程度で崩れる俺ではない。
計30分のクレペリン検査を終え、次のMMPIを迎える。
ミネソタ多面人格目録。簡単に言えば、心理テスト。
正直、これもまったく対策していない。
せいぜい「どちらでもない」を極力選択しないこと。
あまりにもこの回答が多いとそもそも検査の結果がでない。だから、ありのままの自分で勝負する。ありのままの姿を見せるのよ。
しかし、「あてはまる」「あてはまらない」「どちらでもない」の三択は好感が持てるな。「ややあてはまる」とか「ややあてはまらない」とか、そういう中途半端な回答はあまり好きではない。
『あなたには一人の時間が必要か?』
当たり前だわ。「みんなと一緒に成長する!」とかぬかす意識高い系がいるが、能力のない人間が何人集まろうとも烏合の衆でしかない。結局は自分の時間を作って、自分の能力の底上げする時間があって、初めて協力に意味が生まれる。よってYES。
『他人よりも自分が優れていると思うか?』
人間的に正しいのはNOだが、自分を偽ると検査に響くとよく聞くしなあ。YESで。
『あなたは組織のリーダータイプか?』
…少し迷う。いや、今の俺はちゃんと変われている。問題ないはずだ。YES。
そんなこんなで40分ほどの心理テストを終えると、午前最後となる、知能テストの時間だ。さすがにこのテストは最低限の対策をしている。社会人用にあったSPI対策本を何冊かやりこんだ。
配られた問題をざっと流し見すると、どうやら序盤は比較的簡単な問題が並べられていて、後半につれて難しくなっているらしい。
前半から解いていくが、やっぱり頭使うのは楽しいなあ…
一問一問解けていくときの快感が半端じゃない。
特にこのテストは
うわっ気持ちいい…
こんな問題を作ることができる学校に入学したら素晴らしい先生や同級生と高みあえるんだろうなあ…
やばい、ドーパミンどばどばだわ。たまんねえな。
絶対に合格してやろうという気持ちがわいてくる。
もはや俺は思考の鬼と化していた。一切の雑念が排除された、問題に真っ向から挑む真剣勝負。
午前の試験が終了するころには試験官のシャトルランは一切目に映らなくなっていた。
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