第9話 心が変われば
駅に着くともう一人の受験生もそこにいた。
「おはよう、掛橋」
「うん。おはよう」
緊張のせいか、あまり元気はなさそうだ。
「どうした?緊張?」
「空太郎は大丈夫そうだね」
まあ、落ちるとは思ってないからな。
「僕は…学力には自信あるけど、他にできることってあんまりないからなあ」
どうやら、特別試験の心配をしているらしい。
「空太郎は…生徒会長やってたし、サッカー部の部長もやってたし、そういうの得意そうだよね」
そういうふうに見せてたからな。
「でも、小学校のころってそんな目立つタイプじゃなかったよね?特に低学年のころとか」
「そうだっけ?」
「うん。高学年くらいからなんか、まじめになった」
「おかげであのあたりからちょっとモテはじめたな」
「うわ、自慢?」
「あれ、気づいちゃった?」
おそらく、小五あたりから学級委員長をやり始めたことを指しているのだろう。
「でも、そういうところは変わってないね」
「間違いないな」
自分が変われば、周りも変わる。
驚くほどに簡単なことだった。
では、自分を変えるにはどうすればよいか?
いつだって原動力は心だ。
心が変われば、行動が変わる。
行動が変われば、習慣が変わる。
習慣が変われば、人格が変わる。
人格が変われば—
「お、電車きたね」
高崎市といえども田舎の地方なので、土曜日ということもあって乗っている乗客もまばらだ。掛橋を座らせてから自分も座る。目的の駅まで、おおよそ二十分。
「そういえば、掛橋が
「僕は、医者になりたいからかなあ」
「となると
「うん。そうなるね」
ただ、一番の魅力は起業やフリーランスといった、”レール外”の選択に対する税優遇と支援が手厚い点だろう。
また、再就職という点においても『全日中大卒』のステータスは強力だ。
国のトップを走る人材により手厚い投資をしたい、そして国を引っ張っていってもらいたい、という国の思惑なのだろう。
掛橋の場合は
確かに公立高校から医大を受験するよりも難易度は格段に落ちる。
「いいね。夢があるの」
「空太郎はやりたいことないの?」
「あんまりないかな。とりあえず選べる選択肢をとっておくためにも
「ふーん。意外」
「意外ってなにが?」
「空太郎ってなにかに向かって努力してるイメージあったから」
案外見られてることもあるんだな。
「なにかってなんだよ」
「わかんないけど、何かやりたいことがあるんだろうなーって。じゃなきゃそんなに努力できないよ」
間違いない。俺もそう思う。
事実、
その夢のために今日、俺は受験する。
「そういうもんかね」
「そういうものだと思うけどなあ」
どうやら掛橋は納得がいっていないようだが、ちょうど目的の駅に到着した。駅のホームには同じ受験生と思われる中学生も多く見受けられる。
少し軽めの学生カバンをもって、立ち上がる。
「さて、行きますか」
「うん。いこっか」
いざ、お互いの夢への第一歩へ。
心が変われば—運命が変わる。
さあ、運命を変えよう。
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