第4話 それぞれの進路
一方、隣を元気に歩くザ・唯我独尊系女子の
ちなみに我らが群馬県には美術の高校が一校も存在しないため、香那は神奈川県の公立高校を選んでいる。合格したら、寮に入るらしい。
そんなことを考えていると教室での会話に納得がいってなかったのか、
「で、結局なんで
終わった話を掘り返してくる。
「だから言ったじゃん。響きだよ。響き。かっこいいだろ」
「うんうんわかったわかった。そういうのいいから、なんで?」
結構グイグイくるな。まあいいけど。
香那がしつこく受験理由を聞いてくるのも『
通称、『レール制度』。
高校でも大学でも新卒なら必ず使える制度で、大雑把に言えば、それまでの学習実績から個人の性向、得意分野を分析し、それを基に各企業へと人材を振り分けるシステム。つまり100%内定。
といっても、業種から企業まですべて決められてしまうのではなく、大体の業種の方向性は希望が出せる。
その中で、学校側からいくつかの企業を提示され、それらを生徒自身が天秤にかけて就職先が決まる、といった制度。
…俺は正直、この制度に疑問を覚える。確かに業種の希望は出せるし、その先の企業も学生側に選択権がある。それでも、起業やフリーランスといった、いわゆる”レールから外れた”選択をする人間にはめちゃくちゃ冷たい。
このレール制度は新卒の一回限り使える制度だし、通常の再就職をするにはかなり門が狭い。なぜかというと、あのウイルス以降生き残っている企業はどの企業も人材難が深刻で、レール制度でとにかく人材を確保したいという思惑がある。
結果、福利厚生や給与面で劣る企業しか、再就職を受け付けていない。
つまり、一度レールから外れると簡単には元には戻れない、ということだ。
はたして、それが”正しい”といえるのかどうか。
「純粋に自分よりもすごいやつってたくさんいるだろ?そいつらと一緒にいられたらもっと頑張られると思ったからだよ」
「ふーん。中学生なのに意識高いね」
わお。皮肉成分たっぷりだな。
「でも、香ちゃんだって似たようなもんだろ?」
「私は純粋に自分の描きたいと思った絵を描きたいだけだよ」
「…そっちのほうが意識高いじゃん」
「向上心と呼びなさい」
さすが、全国中学校のなんたらコンクールで賞をとった女は言うことが違う。
「それでも」
少し寂しげに。
「みんな、離れ離れだねえ」
と、言葉をこぼす。
普段元気が取り柄のやつが寂しそうにしていると、かわいらしくみえるな。これがギャップ萌えってやつか。
「いや、俺と圭仁は会える距離だから。いっぱい会うから」
「なにそれ、キモッ」
「…香ちゃんともさ、次のお盆になったらまた会えるでしょ」
「まあ、そうなんだけどねえ」
「一番遠くに行こうとしてるやつが一番寂しそうだな」
「そりゃあ、楽しかったし中学。…でもやっぱり絵が描きたいかな」
「うん。香ちゃんらしいね」
「ちょっとは寂しがれよな~ほんと」
なんと。寂しがって欲しかったのか。
それとも自分だけが寂しいと感じているのが恥ずかしかったのか。
「かわいいとこあるじゃん」
「あ?もぐぞ?」
「うっわぁ…」
その口癖のほうが絶対恥ずかしいからな。
大人になったら黒歴史としていじってやろう。
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