第3話 愛すべき悪友たち
受験の最終確認を終えた俺は、自分のクラスへ荷物を取りに向かっていた。
ちなみに掛橋はちゃんと荷物を持ってきていて、そのまま直帰。
約一年お世話になった三年二組の教室に近づくと中から笑い声が聞こえる。聞き慣れすぎたその笑い声はわざわざ誰のものか確認するまでもない。
「
「いや、
「いやなんも面白くないし、いちゃいちゃ要素ゼロだったでしょ。さっきの会話」
「あれ、なんの話してたっけ」
「上毛かるたに全国大会がない話でしょ」
わお。すげえタイムリーな話題。
「ああ!それそれ!なんかさ、小学生のうちって『あれ?勝ち続けたら東京とかいけちゃうのかな!?』とか思ってなかった?」
「わっかるな~。近くの公民館で同じ地区の子たちに勝ち続けると『あれ?私強くない?これ全国行けちゃうやつじゃない??』って思ってたもん」
しょうもなさすぎるのに、わかってしまう自分が悔しい。
「それ、わっかるわあ…『上毛』って言ってるのに日本全国みんながプレイしてると思ってたもん…」
「さっすが、空太郎。わかり手じゃ~ん」
香ちゃんが背中をバシバシ叩いてくる。いてえよ。
「でも、俺たちの地区には掛橋がいたから市大会にすら行けなかったよな…」
「おっ!さすが万年二位!かるたも勝てない!勉強も勝てない!」
「おいこら圭仁」
圭仁の空っぽな頭をチョップする。うん。中身は一応詰まってるな。
この悪友たちは小学校から一緒で、変わる前の俺とも仲が良かった数少ない友だちだ。
「しっかしあの空太郎が
「まあ、すげえ頑張ったもんな空太郎」
「『香ちゃ~ん、香ちゃ~ん』って言いながら追いかけてくる空太郎も可愛かったのになあ」
「お?そんなこと言うなら今からやってもいいんだぞ?」
「やめて、キモい」
圭仁も香那も、俺が変わったきっかけは知っている。
圭仁は意外に空気をしっかり読む。だから、俺が変わる前の話をされるのが嫌なことをなんとなく察してくれる。
逆に香那はズバズバ切り込む切り込み隊長タイプ。ここまではっきりしていると嫌という感情を飛び越えてもはや愛せる。
「おい!
「おっと、主任のおでましだ」
「はーい!今帰りまーす!」
主任の『早く生徒を追い出したいオーラ』を感じながら、そそくさと帰りの支度を済ませて、三人で同じ帰路につく。
三年間、通い続けたこの通学路も、残り数えるほどしかたどることはないだろう。
三人の時間は間違いなく終わりを迎えることになる。
そしてそれぞれ別の道に進む。そんなことを考えていると。
「そういえばさ、結局空太郎はなんで
「なんでって言われてもねえ…『上位10%の響きがたまらないから』、かな」
「うっわあ…キッツ…」
「おいこら」
香那が本気の引きっぷりを見せている。さすがにキモかったか。
「まあ選択肢が多いことに越したことはないでしょ」
「ふーん。そういうもんかねえ」
「そういうもんですよ」
「でもさあ」
唐突に圭仁が口を開く。
「やっぱ高校でも空太郎とサッカーしたかったなあ、俺。最後の中総体、俺たちの守備陣は全試合クリーンシートだぜ?もはや伝説だろ?」
「ああ、確かにあれは楽しかったな」
結局、点は取られなかったけど、一点も取れなくて、全試合引き分けて県大会の決勝リーグで敗退した。
圭仁と俺のCBコンビは
「一緒に
「圭仁はともかく、俺は照英じゃ通用しないよ」
「そんなことないって!空太郎がちゃんと指示出してくれるから俺たちやってこれたんだろ」
「肝心なところは全部圭仁任せだったけどな」
圭仁は1対1のデュエルではまず負けなかった。身長は160そこそこなのに、圧倒的な読みと距離間で相手のエースを軒並みつぶしていた。
現にプレーの司令塔は間違いなく圭仁で、キャプテンでもあった。
プレーでチームを引っ張る圭仁と戦術でチームを支える部長の俺が神戸一中のサッカーだった。
「
「うわ、空太郎相手とか点取れる気がしねえ」
「お互い様だな」
お前は照英でもやってけるよ、圭仁。
男子な会話に花を咲かせていると。
「くわぁ~」
「うわ香那、すっごい口開けたあくびするじゃん。のどちんこ見えたよ今」
「あ?なんだって?」
「ちんこ」
「は?もぐよ?」
「フルーツ感覚でいうなよ…恐ろしい」
やっぱこの馬鹿どもと一緒にいる時間は最高に楽しい。
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