第2話 決戦前日

終業のチャイムが鳴る。

あらかじめ伝えられていた通り、明日の受験に向けて学校側から最終説明をするということで、理科室へと向かう。

1学年70人ちょっといるにもかかわらず、明日の全日ぜんにちテストに受けるのは俺ともう一人だけだった。

全日テストというのは、『全日本都道府県高等学校ぜんにほんとどうふけんこうとうがっこう』に受験する人が受けるテストのことで、この学校は各都道府県に1か2校設置されている。我らが群馬県では『全日本群馬高等学校ぜんにほんぐんまこうとうがっこう』という名前で1校設置されている。


全日テストは、『10%テスト』と呼ばれている。

なぜ、『10%テスト』なのかというと、同学年の上位10%以上のをもつ者のみが合格するといわれているからだ。まあ、本当はもうちょい少ないけど。

能力といわれても「ちょっと痛いなあ」というのが正直な感想だけど、単純な学力では測れないコミュニケーション能力や判断力、論理的思考力などを総じて能力と呼ぶのは、まあ正しいと思う。

要するにウイルス以前の対受験用の勉強はほとんど意味をもたない、ということである。

そのため、一年のころから普段の授業態度や言動、素行にはかなり注意していたし、三年になったときには生徒会長にも就任して、周りに『嘉喜かきくんってリーダータイプなんだ~』というイメージも持たせてきた。


理科室で数分まっていると、もう一人の受験生が控えめに戸を開けて入ってくる。

「おつかれ、掛橋かけはし

中学生程度で何に疲れているのかわからないけど、よっ友テンプレートのあいさつ。

「うん。空太郎くうたろうは早いね」

「受験明日だからかな。ちょっと落ち着かなかったんだ」

「空太郎は推薦じゃん。そんな心配しなくてもいいんじゃない?」

「むしろ推薦だから受験に慣れてないし、そういう掛橋はあの一次試験よく突破したな」

「うん。びっくりした」


全日テストにも推薦組と一般組がいる。

今までの受験なら先に推薦組の合否が決まり、そのあとに一般という流れだったが、全日テストは全くの逆。

中学1年から3年の調書をもとに推薦状が全日ぜんにち側から送られてきた人が推薦組となるわけだが、それ以外の生徒で受験を希望する者は『一般組』と呼ばれ、先に『国語』『数学』『理科』『社会』そして『プログラミング』の五つのテストを受け、合格した者が推薦組と合流し、明日の全日テストを受ける。

つまり、掛橋は以前おこなわれた一般組の一次試験を勝ち抜いている。

「でもあのテスト、ほとんど受からないって聞いてたけど」

「うん。この学校からは僕だけかな」

「やるね」

希望して自己調書を書けば、基本的に受けられるので、そこそこの人数が受けるが、一次テストの合格率は5%くらいといわれている。

つまり掛橋はかなり優秀だったということだ。

正直、俺もまともに受けたら絶対に受かるという自信はない。

なにより、この学校の定期考査で俺が『永遠の二位』であり続けたのもこの掛橋という存在が偉大だったからだ。


「でも、問題は特別試験だよねえ」

「そうだな。今年は何やるんだろうな」

「たしか、去年がリレーで一昨年が討論会だったよね?」

「ああ。討論会はともかく、リレーが試験ってのは面白いよな」

「ね。運動とか僕、ちょっと自信ないなあ」

特別試験とは、協調性や人間性、リーダーシップなどを測る試験だといわれていて、全日テストの最大の目玉である。

全日テストは午前にクレペリン検査、MMPI(性格検査)と簡単な知能テストを受けて、お昼を挟んだ後に特別試験、最終面接という日程になっている。

午前の試験内容はどれも鍛えてどうにかなるものではないし、午後の特別試験も試験内容がわからないため、対策のしようがない。

まさに”能力勝負”といったところか。

「まあ、ここまできたら一緒に受かろうぜ」

「うん。がんばろ」


掛橋との雑談が一区切りついて少しすると学年主任の先生、各三年生のクラス担任たち、そして校長先生が理科室に入ってくる。

全員がそろうと、学年主任の先生が話を切り出す。

「それでは明日、ついに全日テストが行われますが、我が校の代表として嘉喜くんと掛橋くんの二人が受験をします。さあ校長先生、一言お願いします。」

そういわれると白髪を生やしたおじさん、俺たちの間では鑑三かんぞうと呼ばれている校長がのしのしと立ち上がった。

ちなみに「かんぞう」と呼ばれているのは我らが上毛じょうもうかるたに出てくる「心の燈台 内村鑑三うちむらかんぞう」にそっくりだから。

圭仁けいじんに「そっくりだから見てみ!」と言われてみたときには、あまりにそっくりで双子かと思ったくらいだ。

「え~…掛橋くんは一次試験合格、おめでとう。とても難易度の高いテストだったと聞いています。さすが学年一位ですね」

「はい、ありがとうございます」

当てつけか、こら。

「嘉喜くんは生徒会長を立派につとめあげたね。さすが、永遠の学年二位」

「いやいや!会長関係ないですし!あと一回テストがあったらもしかしたかもしれないですよ!」

「お前はプログラミングで掛橋に勝ったことないだろ」

「そうだった、やっぱ勝てないですね。諦めます」

「おいこら」

場が笑い声に包まれる。

教師からいじられるキャラは美味しいポジションだなあとつくづく思う。

このポジションでいられるのも、『学年二位なのに、推薦を貰ったのは俺だけ』だからだ。じゃなきゃ、こんなイジられかたに納得はしない。

「それでは、明日の受験会場への行き方と時間を確認して解散にしましょうか」

学年主任の先生がまとめに入る。えっ?鑑三の出番もう終わり?しかも担任たちとか一言もしゃべってないし、突っ立ってるだけじゃん。トーテムポールかよ。


その後、トーテムポールたちは一言もしゃべることなく、受験の最終確認は終わってしまった。

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