第37話 青きレギオン・7





 取り合えずやることをやって、後片づけ全てを丸投げした。



 あの後、ケルテラ国は難民保護と援助物資の供出に難民キャンプの設営。そして簡易インフラ整備と文句無しのレベルで従事し、監視した世界賢者協会の派遣官によると、軍事命令に唯々諾々と従う呈で勤めあげたという。



 残る二国も、もはや名目作りの為だった国境での戦争行為を止め、同じく難民保護に勤めあげた。



 世界賢者協会の派遣特使の外交官らと詰め合わせ、しばらく後に三国のウェルダ条約機構への参加と、ナルド民族の現状の生息域を中心とした独立が認められ、名称はまだ決まっていないものの新生ナルダーナ国が誕生する予定となっている。



 バシュナ条約機構側にも内々に話をつけた。



 これでしばらくの間は、政治的に色に染まっていない新生ナルダーナ国の運営が続く。



 ここが大事な所だよ。ナルド民族もここでしっかりした基盤を作っておかないと後で国際社会の荒波にもまれて、またろくでもない状態に戻りかねない。世界賢者協会のにらみも最初の内だけしか効果が無いだろう。



 ほとぼりが冷めたら、また各勢力がうごめき出すはずだ。



 あの虐殺執行軍司令官の証言等も、もし国際社会で発表されたしても、様々な手を尽くして大国の連合が主体であるウェルダ条約機構は覆しにかかっただろう。



 ウェルダ条約機構は全体的な状況を見て、ここは穏便にまずは最初から一応あった事はあった案、ナルド民族に民族国家を持たせて三国にまたがってくすぶる民族問題という火種に終止符を打つという手に近づけて来たという事だ。



 唯一の誤算が新生ナルダーナ国がウェルダ条約機構に参加しなかったという事。



 でも、バシュナ条約機構に参加されては大問題だが(新たに自分達の勢力圏になった三国の中心にバシュナ条約機構参加国があっては面目も丸つぶれだし、このバシュナ条約機構参加国になった新生ナルダーナ国が中心となって、今度はこの三国をバシュナ条約機構側に切り崩してきかねない)新生ナルダーナ国が不参加中立であれば最低限の面目は保たれた事になる。



 そこでまずは手を打ってきたという事だ。「ゆくゆくは」という目論見も含めて。



 本当に、ここからがナルド民族も正念場だよ。賢明にかんばって欲しい。



 自分達の未来なのだから・・・自分達でしっかりやって切り開かないと。 



 それから、しばらくたってからの事。



 私はエルフの女大賢者サリュートに呼ばれて謁見室にいた。



 あれからお願いして、会う時は一番小さな謁見室に変えてもらった。どうせ二人だし。



 なぜか謁見室で会うというスタイルは女大賢者サリュートの方が変えない。何かこだわりがあるらしい。



 私もそこはあきらめた。しかし、毎度、お茶やらお菓子やらも出されるので、ちょっとしたお茶会というか、見ようによっては女子会みたいになっている。



 いつもの席に着くと早速、女大賢者サリュートの方から切り出された。 



 「エーネ、ご苦労様。ちょっと今回情報をつかみ損ねていたわね。後手後手に回って危ない所だったけど、よくやってくれたわ。ただ、後を丸投げされたスタッフは嘆いていたけど・・・」。



 「いや、もうお願いします。本格的な詰め作業なんて無理ですよ。必ずボロが出ます。自分で言うのも何ですが、はったり含めてあそこまでよくやりましたよ。そこから先はお任せしますので、頑張って下さいよ。本当にお願いしますよ、もう」。



 本気だ。大筋まとめたからよいじゃないか。後は専門家にお願いしますよ。



 最初から私が前面に出てって事自体が無理筋だと思うな。



 綱渡りでごまかし続けている日々が続いている気がしているし・・・。



 「ところでね、エーネ。こういうの知っている?」と大賢者サリュートはドンっと書籍らしきものをテーブルの上に置いた。



  はい?



  手に取ってタイトルを見る「白いお姫様と千人の青騎士」。



 「なっ、何ですかこれ?」。



 「知らないの?今やベストセラーの絵本よ。各国での翻訳も進んでいると言うわ」。



 「えっ、これあのターンダヴァン城址の件のヤツですか?誰が?何の目的で?」。



 「いや、目的も裏も何も無いみたい。ただ「青きレギオン(千人隊)」の噂話を聞いた人が感動して勝手に想像して描いた作品みたいよ。それがね、受けているのよ」。



 パラパラとページをめくってみる。



 童話風のタッチで綺麗な絵と子供への読み聞かせ口調で、基本、勧善懲悪のまるでおとぎ話のように描いてある。



 いや、実際にあの現場にいたら、鈍器でぶん殴りのオンパレードと、けたたましくあがる悲鳴の阿鼻叫喚の光景に、こんなファンタジーのホンワカした絵本の中身とは天地の差を感じると思うが、何がどうなっているのだこれ?



 「大衆のね、ちょっとした希望なのよ。理不尽で、不条理で、絶望的な状況でも、どこかに救いがあるのかも知れない。何かの奇跡があるのかも知れない。どこかで世界のバランスを取ってくれる不思議な力が働くのかも知れない。そんな風にね」。



 唖然として口を半開きにして固まっている私をしり目にエルフの女大賢者サリュートは続けた。



 「世界賢者協会の中でもね、エーネ、あなたは「あれがエルフの白姫か」と噂になっているわよ。あなたほとんど他の協会員とノータッチだから、気が付いていないでしょうけど。今や協会内でもちょっとした有名人よ。どうも協会が用意した奥の手。「青きレギオン(千人隊)」は非常時に緊急展開する平和維持のための実働部隊らしいと。その指揮官は一見ふさわしくないエルフのうら若い女性だと。でもね、今回の事で皆の見る目も変わって来たみたいなの。「逆にふさわしいのではないか」と。「いかにも協会の理念を体現している存在なのではないか」とね。私個人としてはよい傾向だと思うわよ。協会内という意味でも。一般大衆に対してという意味でも」。



 嘘だろう。どこがどうなってこうなったのだ?



 「あの、サリュート・・・出版差し止めなどは・・・」。



 「無理よ。そもそも実話として描いていないもの。あくまで参考にしたファンタジー。絵本よ。ターンダヴァン城址なんて固有名詞も出ていないでしょ。あくまで虐げられていた人々の窮地を救った白いお姫様と青く輝く魔法騎士団のお話。エーネ、甘んじて受けなさいな。役得と言うものよ」。



 「あーっ」て顔して、うつむいた私にサリュートが追い打ちをかける。



 「それにね、エーネ。あなたにはわからないのかも知れないけれども、私はこの絵本一つが世に出た事でも、ちょっとだけ人型種族の集合意識が変化した事を実際に感じるのよ。人の思いの蓄積は偉大よ。まだまだディストピアの方が優勢だけど、ほんのちょっと風穴を開けた。これはそういう出来事なのよ。これからもあなたのような存在に期待しているわ。ありがとうね。そして、ご苦労様。また、次の機会が来るだろうからよろしくね」。



 そう告げると、にっこりと麗しのエルフの女大賢者サリュートは微笑まれました。



 それはそれは惚れ惚れするようなお顔で。



 あーもう、ホント、きっつい職場だぜ!



 私の心の潤いはどこにあるの?



 ねえ、誰か教えてよ・・・。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エルフの里を守った超ド級ゴーレム かものはし @flying-kamonohashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ