第6話 現実のはなし

「え・・・。」


翌日の放課後、俺は驚きを隠せなかった。


「やっほぉ♪約束通り迎えに来たよぉ。さ、行こっか」

優は俺の手を満面の笑みで掴むと、そのまま引きずるように歩き始める。


理解が追いつかない。


目の前には昨日の夢で見たのと同じ優が存在して、

俺をどこかへ連れて行こうとしている。


(え、ど、どういうこと!?え、なんで優がここに!?

それでなんで俺の手を掴んで・・・・。え?)


俺の頭の中は急速な情報の流出により渋滞になってしまう。

その結果、何も考えがまとまらず、ただただ為すがままに優に付いていってしまう。



「ささ、乗って乗って♪」

そして俺の意識が安定していないうちに優は俺の体を車へ押し込んでくる。


車の振動が俺の体を心地よく動かしていく。

俺は先ほどからの情報処理をすることがまだできていない。

その上でこの心地のいい揺れだ、

学校の授業で疲れている体がこの優しい誘惑に勝てるわけもなかった。


「ぐぅぅぅぅ」



「お~い。着いたから起きてよぉ・・・。」


俺の体を強くも弱くもない適度な振動が襲った。

それと共に鈴のようなきれいな声が俺の耳を駆け巡る


(う~ん、だ、誰かが俺を呼んでいるのか?でもまだ眠い・・・。)

その心地い振動は眠気を助長させる一因となっていた。

揺さぶられるたびに起きなくてはいけないという意欲までも刈られてしまう


「あと10分。むにゃむにゃ」



すやすやと眠る武瑠の顔を見ていた空はだんだんと苛つきを覚えていた。

揺すっても、声をかけても起きてくれない。

これからマネージャーとの顔合わせとレッスンがあるというのにこの有様。

昨日の武瑠の決意の籠った意気込みを聞いた瞬間、

今まで感じたことのない幸福感を空は味わっていた。


これでやっと一人で寂しくない。

やっと秘密を共有できる仲間を見つけることが出来た。


それなのに目の前にいるこの男はそんなことをさっぱり忘れたかのような顔をして

その上、いつの間にか寝ていて、一向に起きないという貞堕落。


ついつい揺さぶる力に必要以上の力が入ってしまう。

しかし、起きない。



「あ~!!もう!!」


何度目かの揺さぶりの後、空の怒りは爆発した。

空は拳を思い切り握り込むとある一点目掛けて、その拳を突き出した。



揺さぶる力がなぜか止まった。

俺はまだ寝足りない眼をぐっと瞑っていた。


ムギュリ


その音を体の奥底で認識した瞬間、俺はばっと目を開く。そして・・・。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

え、なになになに!?え、やばい凄い痛い。ものすごく痛い。なんだこの痛み」


思わず涙目になりながら、俺は叫び声をあげる。

それほどに想像を絶する痛みに襲われた。



股間からくるその痛みは半端なものではなかった。

握りつぶされたような。押しつぶされたような感覚が全身の痛覚を襲い、

涙と共に大量の冷や汗が顔や体から噴き出した。


痛い。ただただ痛かった。


そんな痛みに先ほどまで居座っていた睡魔は退散していき、視界がはっきりする。


「ううっ。だ、誰がこんなひどいことを・・・。」


まだ痛烈に痛む股間を抑えながら視界の中の犯人を探る。


「え、あ・・・。」


しかし、その表情を見た瞬間、俺の反発心は一瞬にして消え去った。




瞳に映ったのは優が俺に侮蔑の眼差しを向ける様だった

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アイドルは誰?? あすか @yuki0418yuki

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