台風と幼馴染と。
くれまる
明日の天気は台風
明日の天気は雨。というか、台風。しかも、大荒れの予報。対策が必要とテレビでは騒がれ、私の家も窓ガラスにテープを張っている。電車も運休が予定されているくらい、危険が想定されている。そのおかげで明日のバイトは休みになった。
「麻友、エプロン忘れないようにね」と母が私に話しかける。
「バイト無くなったからいらない。」と答え、リビングから自室に戻る。
部屋に戻り、ベッドに横になりながらスマホをいじる。適当にゲームアプリを立ち上げログインボーナスだけ獲得していく。徐々に飽きて、眠りにつく。
ガタガタ。ヒュー。ガタガタ。
そんな音が外からして目が覚める。5:47。風が強いからってこんなにうるさくなるものなのか。もう一度寝ようと思ってもなかなか寝付けない。
「なんか目が覚めちゃった」
とツイッターで呟いてみるも、タイムラインはだれもいないまま静かだ。
適当にゲームアプリを立ち上げる。すると、LINEの通知が来た。幼馴染の大貴からだ。
「起きてる?」というメッセージ。
「起きてるよ」と返すとすぐに既読が付く。
「台風見に行かね?」と誘いが来た。いや、何言ってるんだ。どう返信しようか困っていると「今すぐ下に集合な」ときた。仕方なくOKというスタンプを押しておく。大貴とは同じマンションで、小さいころからの腐れ縁だ。幼稚園から高校までは同じで、今年の春から別の大学に通っている。少し強引なところもあるが、それを断れない自分がいる。下に集合というのは、一階のエントランスに集合ということだ。寝起きのぼさぼさ髪をまとめて、外に出られるような恰好に着替える。変じゃないかな、なんて鏡をみてある程度可愛くしてから家を出る。
エレベーターに乗り、一階へ行く。一階に着くと、エントランスの端にあるソファに腰かけた大貴が窓から外を眺めていた。あいかわらずまつげが長いのが憎たらしい。私に気づいた大貴が「おせーぞ」という。
「6時前だよ。呼び出すほうがどうかしてんだけど」
そんな悪態をつくと、うるせーと言ってまた、窓の外を眺める。
大貴の横に腰かけ、同じように窓の外を眺める。
「風強いな」と大貴が呟く。
「だね。」と同意して、風の強い窓の外を見る。
二人して話さなくなると、風の音が余計うるさく聞こえる。窓の外には、風のせいで激しく揺れる木と、飛ばされる葉っぱ、時々ビニール袋のようなごみも飛んでくる。
ちらりと横を見ると、頬杖をついて外を見ている大貴が視界に入る。見慣れた横顔に安心する。恰好も、幼馴染だから見られる姿で、どこか心地よさがある。部活で履いているようなハーフパンツにダサいTシャツで、完全に寝間着姿だ。
「そのTシャツ。」
「あ?」大貴の奥二重の目が合う。
「そのTシャツ結構前から着てるよね」
「中学の時からだから、6年くらいじゃね?」
「大学生になってそれ着てるのどうなの」
「うるせー」
また外を眺める大貴。私も同じようにまた外を眺める。
すると、窓の外に大きい看板が飛んでいくのが見える。
大貴が片手で頭をかく。すると、
「たべた?」
と聞いてくる。
「なにが?」
「今の看板、ラーメン屋のじゃん」
「どこの?」
「は?あっちのほうにある」と右側を指でさす大貴。
最近できたばかりの若葉亭というラーメン屋のことを言ってるのだろう。
「食べてないよ」
「そっか。」
また、黙って外を見る大貴。私も同じように外を見る。
「てか、お前、ラーメンダメだったな」
と大貴が呟く。そうだ、私はラーメンが苦手という珍しいタイプの人間なのだ。
うん、と適当に返事をして外をまた眺める。
少しだけ体勢がきつくなってきて、靴を脱いで体育座りでソファにすわる。
「さむい?」
「いや。」
大貴のほうは見ず、窓の外を見ながら答える。
「そっか。…最近どうなの」
大貴が何が聞きたいのか分からない質問をしてくる。
「何って、普通だけど何?」
「何って、えっと大学生活どうかなって。」ボヤっとしたことを聞いてくる。
「あー、うん。普通に楽しいよ」と雑に答える。
「そっか。俺さ、なんかさ、慣れなくって」ともごもごと言ってくる大貴。
大貴のほうを見ると、窓に背を向けて体育座りで、丸くなっていた。
「友達出来ないの?」
なんて冗談めいて言ってみる。
「ちげーし。」
鼻で少し笑いながら答える。
「いや、なんていうか、その、麻友いないのがさ。うん。」
ポツポツと言葉を呟いていく大貴。
「そうだね。」
と私が答えると、大貴が顔を上げる。奥二重がよく見える。
目がずっとあっているのが恥ずかしくなって目をそらす。
「ごめん、肌寒くなってきたから帰るね」
「ああ、うん」
エントランスに大貴をおいて、エレベーターに乗り込む。
ガタガタ。ヒュー。ガタガタ。
台風はあいかわらずうるさい。
台風と幼馴染と。 くれまる @kurekure_maru
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