創ちゃんは狼じゃない、私だけの白馬の王子様です。

118

 【創side】


「創、あれ礼奈じゃね?」


 敏樹の部屋の窓から、外灯に照らされた歩道に視線を向ける。


「絶対、礼奈だよな? あの野郎、俺の妹に手ぇ出しやがった!」


 俺は部屋を飛び出す敏樹の腕を掴む。


「敏樹、お前の出る幕じゃないよ。これは俺と礼奈の問題だ」


「創……」


「いい加減、シスコンは卒業しろ」


 敏樹の胸をドンッと押すと、敏樹はベッドに尻餅をついた。


「わかったよ創。お前が行け。ビシッとケジメつけてこい」


「おう」


 敏樹の前で冷静を装っていた俺は、ドアを閉めると同時にパニックになり、階段を一気に駆け降りた。


 俺の……

 俺の礼奈に……!


 ロケットのように玄関を飛び出し、猛ダッシュで狼に駆け寄り胸ぐらを掴んだ。


「俺の礼奈に手を出すな!」


「創ちゃん、違うの……」


 仲良く手を繋いで、『違うの』って何が違うんだよ。俺は浮気現場をこの目で目撃したんだぞ。


 礼奈の言葉にカーッと頭に血が上った俺は、狼の顔面を一発殴る。すかさず狼が、俺の頬に拳を振り上げた。まさかの反撃だ。


 しかも男にダメージはないが、俺の頬に食い込んだストレートパンチに、脳天がクラクラしている。


「痛たたたっ……」


「すみません。暗がりで不意に殴られたので、つい……。大丈夫ですか」


 狼は俺を殴ったくせに、礼儀正しく頭を下げ謝罪した。さらなる反撃を目論んでいた俺は拍子抜けする。


「創ちゃん、どうして乱暴するの。先に殴りかかった創ちゃんが悪いよ。一橋先輩、大丈夫ですか?」


 礼奈は狼から身を守った俺に感謝を述べるのではなく、狼に優しい言葉をかけた。


「どうしてって、礼奈がコイツと……手を繋いでたから」


「すみません。俺、南が好きでした。だから最後に南にお願いして、少しだけ手を繋いで貰ったんです」


「最後?」


「南があなたと交際していることを知っていたのに、なかなか諦めることが出来なくて。でも、あなたを一発殴ってスッキリしました」


「はぁ……?」


「『俺の礼奈に手を出すな』なんてかっこいいセリフを、俺も一度言ってみたかったです。今後は南に恋愛感情は持ちません。負けを認めます。でも、あなたが南を傷付けたら、その時は南を奪いに来ます」


「奪う!?」

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