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「そうとうショックだったみたいね」


「ショック?」


「とぼけないでよ。あなたのせいよ」


「私……ですか?」


「昨日彼氏とみんなの前でイチャイチャするから、颯はショックで落ち込んでるのよ」


「私のせい……」


「他に原因見つからないでしょう。確かにあなたの彼氏は、イケメンでオトナっぽくてカッコいいけど。颯の前でこれ見よがしに手を繋ぐなんて、颯の気持ちを知りながら、あなたも随分と酷いことするよね」


「違います。私は……」


「颯はあなたのことが本当に好きだったのよ。もうすぐ大会なのに、このままだと試合に負けるどころか、レギュラー外されたらどうするつもり」


「私は……鈴木先輩を応援したくて」


 鈴木先輩が私をキッと睨んだ。


「私を応援ですって? 余計なことしないで。私はサッカー部のマネージャーなのよ。部員と恋なんてしない。サッカー部の秩序を乱した責任はどうとるつもり」


「責任……」


「鈴木先輩、それは言い過ぎです。確かに礼奈は部員の前で彼氏と手を繋いだけど。そもそも部内恋愛禁止なのに、山梨先輩が礼奈に猛アタックするからいけないんでしょう」


 百合野は私を庇うために、鈴木先輩に歯向かった。


「百合野、もういいよ。私が悪いの。鈴木先輩、本当にすみませんでした」


「今から練習試合するから、試合の準備して。あなた達が入部してサッカー部の規律がめちゃくちゃよ」


「鈴木先輩、酷い。私達はまだ新米マネージャーだけど、一生懸命頑張ってるのに。山梨先輩は勝手に礼奈に恋をして、礼奈に失恋したからショックで調子が出ないなんて、そんなの言いがかりだわ」


「言いがかり? あなた達に颯の何がわかるの!」


「百合野、もういいってば」


 私はコーフンしている百合野を、必死で宥めた。


「こらマネージャー、何を騒いでるんだ。練習の邪魔をするなら帰れ!」


 顧問の先生に怒鳴られ、百合野の怒りに火がついた。


「こんなクラブやってらんない。礼奈、帰ろ」


「わ、わ、わ、百合野。待って……」


 百合野は私の手を掴み、グラウンドから走り去る。私は百合野に手を引っ張られあとに続く。


 サッカー部員が私達を見ている。勿論、山梨先輩もこちらに視線を向けている。


 鈴木先輩は私達を無視して、黙々と練習試合の準備をしていた。


 私は鈴木先輩の恋のキューピッドになるつもりだったのに。恋のキューピッドどころか、鈴木先輩を怒らせてしまった。


 独り善がりで、人の気持ちを思いやることができないなんて恋のキューピッド失格だ。

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