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「本当にバカなんだから」


 鈴木先輩は文句を言いながら、後片付けをしている。百合野は単純に喜んでいるが、私は複雑だった。


 片付けを終え、私達もジャージから制服に着替えた。正門前にはサッカー部の部員が集まっている。山梨先輩と三年生のキャプテン立見遼たつみりょう先輩。


 あとのメンバーは、よく見ると新入部員ばかりだ。


「ルールを重んじない狼の群れだわ。気をつけなさい」


 鈴木先輩は私達に耳打ちをして、クスリと笑った。新入部員だけを誘うなんて、キャプテンと山梨先輩は優しいな。緊張している新入生の気持ち、ちゃんとわかってるんだ。


 狼の群れは駅前のたこ焼き屋の狭い店内を占拠した。カウンターとボックス席はあっというまに満席となる。


「みんな、ここのたこ焼きは安くて美味しいんだ。だから、遠慮なく食え。今回は俺と山梨の奢りだからな」


「キャプテン、本当ですか! やったあ」


 新入生から歓声が上がる。


「俺は夏で引退する。次期キャプテンはこの山梨だから。こいつは練習には厳しいが、俺より頼りになる男だから、みんなも宜しくな」


「立見先輩、俺を煽てても全額奢りませんからね」


「バレた?」


 店内でドッと笑いがおき、私達もつられて笑った。鈴木先輩の視線は、ずっと山梨先輩を見つめてる。


 その眼差しは……。

 恋をしている女子の目だった……。

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