難関高校に合格したら、とっておきのご褒美下さい。

50

 俺は週に三回、バイトのない日は礼奈の家に通い家庭教師をした。週末のデートも惜しんで勉強三昧だ。


「ねぇ創ちゃん、先生と彼氏のONとOFFして。平日は『先生』で週末は『彼氏』の創ちゃん。週末くらいデートしたい」


 甘えた声で誘惑しないでくれよ。

 俺は毎日『彼氏』でいたいけど、志望校を聞いてしまったからには、そんな余裕がないくらい焦りを感じているんだから。


「フローラ大学附属高校を受験するなら、遊ぶ暇も惜しんで勉強しないと無理だよ」


「わかってます。でも受験生もたまには息抜きが必要なの。勉強ばかりだとおでんみたいにグツグツ煮詰まっちゃうでしょ」


「おでんは煮詰まった方が、味が染みて旨いんだよ」


「意地悪だな。ムチばかりだとやる気が失せる。先生、たまには飴を下さい」


「仕方ないなぁ。週末だからデートするか」


「やったぁ~!」


 礼奈はクローゼットから次々と洋服を取り出しては鏡と睨めっこする。


「創ちゃん、赤いワンピースと青いワンピースと黄色いワンピース、どれがいい?」


 ていうか、信号機かよ。

 もちろん、『止まれ』の赤だ。


「どれも似合ってるけど、俺の前で着替えないでくれる」


「だったら、後ろ向いててよ。今日は青いワンピースにするね。青は『進め』だから」


『進め』って、なんだ。

 それじゃ事故するだろ。


 しかも、後ろ向けって。

 この部屋で着替えるなんて、それは反則だよ。


 俺の後頭部に目玉が移動するだろ。


 ていうか、背後でバサバサ洋服を脱ぎ散らかすなんて、俺の脳内が妄想で大パニックだ!


 見てはいけないと、思えば思うほど、コッソリ見たくなるのが男の性だ。


 チラッと横目で見ると、キャミソール姿の礼奈が視界に入る。


 ――『青は進めだ! いけー!』

 欲望が青旗を振り上げる。


 ダメだ、ダメだ! 俺は家庭教師なんだってば。


 ――『淫らな妄想はご法度』

 理性が赤旗を振り上げ、欲望の前に立ちはだかる。


 ――『いや、さっき家庭教師はOFFにしたから、今は彼氏だろ。だったらONだろ』

 お、ON!? そうだよ。俺は彼氏なんだ。チラッと見るくらいはOK?


 礼奈に気付かれないように、チラッと……。


「やっぱり見た」


 礼奈がこっちを見てニマッと笑った。

 今日の洋服は空みたいに鮮やかなブルーのワンピース。歩くだけでフレアスカートがヒラヒラしている。


「べ、べつに、覗き見したわけじゃない。もう着替えたかなって、思っただけだよ」


「本当かな?」


 礼奈は上目遣いでニマニマしながら、俺をからかう。さっき見てしまったこともバレてるのか?


「ほ、本当に見てないってば。今日はどこに行く?」


「原宿! 創ちゃんと行きたいショップがあるの」


「はいはい、原宿ね」


 俺達は礼奈の家を出て、手を繋ぎ駅に向かった。


「創ちゃん、風が気持ちいいね」


「そうだな」


 礼奈の手をギュッと握ると、礼奈は嬉しそうに笑った。


 俺にとって、礼奈の笑顔が最高のご褒美だ。


 擦り擦りと仔猫みたいに体を寄せる礼奈。高校生の頃よりは多少落ち着いた俺だけど、姫の誘惑には今でもドキドキさせられる。

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