38

「創、わかってんだろーな!」


「はいはい、手は出しません。足も出しません。尻尾も獣耳も出しません。俺は運転席に座り朝まで起きてます。なので角を出さないでもらえるかな」


「何が角だ。俺は鬼じゃねぇ。朝まで一緒にトランプでもしてろ」


 お前は鬼だ! それ意外の何者でもない。


 自分達はイチャイチャするくせに、俺はトランプかよ。


 そもそも、男女が二人きりで初めての夜を過ごすのに、手も足も出さないなんて不可能だろ?


 俺はダルマじゃないんだからな。


 カップルで一夜を過ごしたいなら、初めからテントを三つ持って来い。


「礼奈、行こうぜ」


 憤慨した俺は、礼奈の手を掴み駐車場に向かった。


 車のドアを開け、後部座席のシートを倒し、フラットにする。


「まったく、計画的犯行だよな。キャンプなのに、どうして俺達だけ車なんだよ」


 俺の不満はおさまらない。

 キスもさせてもらえないんだ。蓄積した不満も爆発するさ。


「うふふっ」


 怒り心頭の俺とは対照的に、礼奈はニコニコしている。


「礼奈、なんだか嬉しそうだな。敏樹に腹が立たないのか?」


「だって、今夜は創ちゃんと二人きりだよ」


 こ、今夜は……二人きり。

 ゴ、ゴクリ……。


「そうだよな……」


 そうだよ。

 今夜は礼奈と二人きりだ。


 敏樹は美貴ちゃんに夢中。

 良も妃乃ちゃんに夢中。


 誰も車には近付かないし、監視カメラが設置されているわけでもない。


 車は密室と化す。

 即ち、お、俺達は二人きり!!


 それって……かなりヤバくないか?


 俺達は後部座席に乗り込みドアを閉めた。窓を締めきると暑いため、サンルーフと座席の窓を少しだけ開ける。


 二人で寝転がると寝心地はサイコーだ。

 サンルーフからは、星空が見えた。


 暗闇に光る星……。

 BGMは波の音。


 めちゃめちゃロマンチック……。


「あ、あのさ。トランプしよう」


「トランプ? ここで? いいけど……。お兄ちゃんに言われて、トランプやオセロゲームを一応持ってきたから」


 敏樹のやつめ。何でキャンプにトランプやオセロゲームが必要なんだよ。


 最初から、俺達を車に閉じ込めるつもりだったんだな。


 これは明らかに計画的犯行だ。

 許せない。


「礼奈、ババ抜きする? それとも神経衰弱?」


「創ちゃん本当にトランプするの? つまんないよぅ」


「……だよな。じゃあオセロゲーム」


「ゲームより……腕枕して」


「う、う、腕枕……」


 男ならば一度は憧れる、好きな女の子の腕枕。


「俺の腕、ゴツゴツしてるから寝心地悪いかも」


「創ちゃんの腕枕。一度してもらいたかったの」


「こんな腕でよかったら、どうぞ」


 俺はシートに寝転んで腕を差し出した。礼奈は俺の腕に頭を乗せた。


 柔らかな髪の毛が腕にあたり、ちょっとくすぐったい。礼奈の重みが心地よく感じられ、二人の距離がますます縮まった。

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