29

「家族が戻ってくるかもしれないから、礼奈の部屋に上がっていい?」


「……うん」


 礼奈の許可を得て二階に上がり、俺達は礼奈の部屋に入る。何度も遊びに来たことがある部屋。でもいつも敏樹の監視つきで、部屋の中で二人きりになることはなかった。


 室内に入ると、礼奈が泣きながら俺に聞いた。


「創ちゃんは……あの人が好きだったんでしょう。綺麗な人がいいんでしょう」


 何を言ってんだ。

 俺は礼奈が好きなんだよ。


「どうしてそんなことを聞くんだよ?」


 俺は礼奈の涙を指で拭った。


「礼奈は中学生だから、一緒にいてもつまらないでしょう」


 礼奈は潤んだ瞳を真っ直ぐ俺に向けた。


 中学生だけど、潤んだ瞳は十分色っぽいよ。

 俺、こんなにドキドキしてるんだから。


「そんなことないよ。俺は、礼奈が好きなんだよ。中学生の礼奈が好きなんだ」


「創ちゃん、ロリコンなの?」


「は? どうしてそうなるんだよ。ロリコンじゃなくて、一人の女性として、礼奈のことが好きなんだよ」


「ほんと?」


 あー……。

 そんな悩ましい目で、俺を見ないでくれ。


 ヤバいほど、ドキドキしてきただろ。


「創ちゃん……。礼奈も好きだよ」


 礼奈が俺の胸に顔を埋めた。


 ぐあああぁ……。

 もう一度礼奈をムギューッて、抱きしめたい。


 俺の両手は礼奈を抱き締めたくて、パタパタと上下している。でも、ここで抱き締めたらアウトだ。俺の暴走が止まらなくなる。


 ――『キスくらいしてもいいんじゃね?』

 欲望が脳内で俺を唆す。


 ――『ほら、ボコられたあとの消毒。あれってキスみたいなもんだろ?』

 いやいや、あれはキスじゃない。あれは口角の横を掠めただけだし、あくまでも傷の消毒だ。


 ――『今日は、敏樹いねぇし。殴られる心配ねぇし。ここでしないで、いつやるんだよ』

 うっさい、うっさい、ムラムラした欲望は黙ってろ。


 ――『そうだよ、創。礼奈が本当に好きなら大切にしないとな』

 理性の登場に、俺は脳内の欲望を蹴散らす。


「……礼奈」


 俺は礼奈の額にそっとキスを落とし、額と額をくっつけて、にっこり微笑んだ。

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