仲直りしたいけど、蛇の生殺し状態です。

28

 俺はその日の夕方、礼奈の家を訪れた。


 敏樹は彼女とデートで家にはいない。

 邪魔者のいない間に、礼奈と仲直りをするチャンスだ。


 玄関のチャイムを鳴らすと、暫くしてドアが開いた。そこには胸元の大きく開いたタンクトップにショートパンツを穿いた礼奈が立っていた。


 ――ヤ、ヤ、ヤバイ。

 礼奈って、こんなにグラマーだったっけ。


 ここまで肌を露出した服装で会ったことがない。


 俺はどこを見たらいいんだよ。


 俺の視線は胸の谷間を避け、右往左往している。明らかに挙動不審だ。


「……創ちゃんどうしたの? 今日は約束してないよ」


 少し驚いた顔で俺を見つめた礼奈。目は兔みたいに充血していて、瞼は腫れぼったい。


「んっと……。礼奈に会いたくて。たまらなく会いたくて。自転車を走らせた」


 俺、何言ってんだ。

 こんなことで、許してもらえるわけないだろう。


「……昨日の人は、創ちゃんの彼女でしょう」


「まどか? まどかは俺の元カノだよ」


 しまった。ついポロッと暴露しちまった。

 礼奈は『元カノ』って言葉で、すでに固まってる。


「……元……カノ……」


 よほどショックだったらしく、そのまま礼奈は黙った。


 ……だよな。

 礼奈にはちょっと酷だったよな。


 どうして『友達』だと、誤魔化せなかったんだろう。俺はバカか。


 こうなったら、正直に話すしかない。


「まどかとは去年の三月に別れた。俺達はもう終わってるんだ。だから『元カノ』なわけで、今は友達だから」


「……ふえっ」


 礼奈の大きな目に、じわじわと涙が溢れる。


 また泣かせてしまったようだ。

 どうすれば、泣き止んでくれるんだよ。


「礼奈、俺が好きなのは礼奈だけだから」


「……噓だぁ」


 しゃくりあげて泣き始めた礼奈を、俺は両手で抱き締めた。


 こんな風に礼奈をギュッて抱きしめたのは、初めてかもしれない。いつもは礼奈にギュッと抱き着かれる立場だから。


 俺は小さな子供を宥めるように、礼奈の頭を優しく撫でる。

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