30

 俺は礼奈を両手で優しく抱き締めた。

 礼奈は頬を赤らめ俺を見上げた。


 色っぽいな。

 めっちゃキスしたい。


 でもそれをしてしまうと、欲望の思う壺だ。俺は欲望なんかに負けないんだよ。


「創ちゃん……いいよ」


「いいって?」


「お兄ちゃんいないし……」


「礼奈、俺を困らせないで」


「……つまんない」


 つ、つまんないって。

 あんまりだ。


 俺はモグラ叩きみたいに次々顔を出す欲望を、ハンマーでバンバン叩いて粉砕しているんだよ。


 本当は今すぐ礼奈をベッドに押し倒したいのに。


 でも俺は、そんなことはしない。

 礼奈を大切にしたいから。


 だけど十ハ歳の男子には、かなりキツい我慢大会なんだよ。


 俺の腕の中で、礼奈が呟いた。


「創ちゃん……」


「なに?」


「……キスしてもいいよ」


「はあ?」


 俺は思わず声を張り上げた。


『つまんない』の次は『キスしてもいいよ』って。どこでそんなセリフを覚えたんだよ。中学校の教科書には載ってないだろう。


 俺を東京湾の魚の餌にする気か。

 礼奈の誘惑に負けたら、敏樹に何をされるかわからない。


 やっぱり礼奈は小悪魔だ。


 仲直りはできたけど、この誘惑が続くなら蛇の生殺しだよ。


 だあああぁ……。


 礼奈のタンクトップから、胸の谷間がチラチラ見えて、それはそれは刺激的な光景で。


 俺の頭の中で誘惑の花が咲き乱れ、その甘い香りにクラクラしてる。俺の魂が幽体離脱して、礼奈を襲ってしまいそうだ。

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