12

「一度キスをしたら、俺はもう止まれない。デートをするたびに、礼奈にキスしたくなるし、それ以上のことだってやりかねない」


「創ちゃん……」


「俺が礼奈とデートするたびに、そんなことばかり要求してもいいのか?」


 俺を誘惑して困らせる礼奈を、逆に脅かして困らせる。


 やっぱりまだ中学生だよ。

 ちょっと過激な発言をすると、もじもじと恥ずかしそうに俯いた。


 俺だって、本当は礼奈を困らせたくないんだ。


「そんなことばかりされたら、礼奈も嫌だろう。だから俺はずっと我慢してるんだよ。敏樹と約束したからじゃない。俺が礼奈のことを大切に思っているから。礼奈が大人になるまで、ピュアな関係でいたいんだ」


 十八歳の俺には、ピュアなんて言葉はもう似合わないけど。礼奈にはピュアでいて欲しい。


 礼奈の頭をポンッて、優しく叩く。

 これで俺の気持ちが、礼奈に伝わったはずだ。


 礼奈は俯いたまま、もじもじと右足を動かす。


「……もう大人だもん」


 はあ?


 礼奈が『ぷぅーっ』と河豚みたいに頬を膨らませて、俺を見上げた。俺の想いが全然通じていないようだ。


 それとも、礼奈は日本語が通じない宇宙人か。


「ていうか、大人の女性はそんな顔しないよ」


 礼奈は俺にムギュッて抱き着き胸に顔を埋めると、小さな声で呟いた。


「……創ちゃん」


「なに?」


「キスってどんな味がするのかな? 私に教えて」


 ド、ド、ド、ド、ドキュン!!


 心臓をマシンガンで撃ち抜かれたみたいに、体に空いた無数の穴からピンクの妄想が溢れ出す。


「キ、キスか? そうだな。礼奈の可愛い声みたいに、甘ったるい味かな」


 礼奈が俺の胸に埋めていた顔を、ふっと上げた。


 俺の顔を下から覗き込む。ちょっと潤んだ瞳。花びらのように可愛い唇。


 ――反則だよ、反則。


 その顔、可愛いすぎだろ。

 

 思わずレッドカードを上げたくなる。


 ダメだぁ―……。


 ガマンの限界だよ。


 俺は一年も我慢したんだよ。

 これは強要ではない。

 両想いの男女が、合意の上での愛情表現なんだ。


 もういいかい?

 もういいよ。

 

 自分を正当化するために、自分でツッコむ。


「……礼奈」


 目の前で瞼を閉じた礼奈。


 ゴクンと息を飲み唇を近づけたが、クソ真面目な理性が脳内で俺を叱咤する。


 ――『いいのか創? お前の決意はその程度なのか? 礼奈は中学生なんだぞ。ピュアを貫くんじゃないのか。中学生にキスをするとは、これは立派な犯罪だ!』


 は、犯罪!?


 俺は犯罪者にはなりたくない。

 それに礼奈を想う気持ちは本物だ。


 礼奈……。

 ごめん。


 俺は指先で礼奈の唇にチョンと触れる。

 指先を離すと礼奈が俺にこう言ったんだ。


「……創ちゃん、味……しないよ?」


 お、お姫様、まだ俺を誘惑しますか。

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