11

 【創side】


 突然、礼奈が俺の手を握った。


 男の欲望のスイッチがONされ、礼奈に唇を近づけたが理性で食い止めた。


「……創ちゃ……ん、私のこと本当は嫌いなんでしょう」


 嫌いなわけないじゃん。

 俺が礼奈のことをどれだけ好きか、わかってんの?


「だったら……キスして……」


 礼奈に『キスして』って言われて、俺は死ぬほどドキドキしたんだよ。映画のキスシーンをバックに、彼女とキスをするなんて男の憧れなんだから。


 でも俺は可愛い唇を塞ぎたい欲望を、グッと抑えた。


 礼奈の額にゆっくりと近付き、キスを落とした。このキスだって礼奈とは初めてなんだ。


 唇にキスしたいという欲望が、ゲームセンターのモグラ叩きみたいに次々と飛び出し、俺は理性のハンマーでボコボコと押さえ込むが、これ以上我慢できない。


 俺は理性が暴走しないうちに、礼奈の額から唇を離す。


 ゆっくり瞼を開けると、礼奈は滝のように涙を溢している。


 映画は泣けるシーンじゃない。

 寧ろ甘いラブシーンだ。


 額にキスしたから、感動してるのか?

 これは嬉し泣き?


 嬉しいのに、どうしてそんな悲しい顔をして泣くんだよ?


 それとも、額にキスしたから怒ってるのか? やっぱり公共の場でそんなことをするなんて間違っていた。


 でも……「キスして」っていったのは、礼奈だよ?

 

 礼奈の気持ちが全然わからない。

 泣きたいのは俺の方だよ。


 ここは映画館。

 頼むから泣き止んで。


 礼奈は突然スクッと立ち上がった。

 その泣き顔は、若干怒っている。


 ヤバい。

 俺のお姫様は、超ご機嫌斜めだ。


「礼奈、もしかして怒ってるの?」


 通路をスタスタ歩いている礼奈を慌てて追いかけて、腕を掴んだ。


「離して……」


 礼奈は俺の手を振り解き、早足でスタスタと歩く。暗闇が苦手な俺は足下がおぼつかない。


 困った。最悪だ。

 俺のキスが、下手だったのかな。


 ――映画館を飛び出した礼奈。

 後を追う俺。


 礼奈の向かう先には最寄り駅。


 俺達は渋谷の雑踏を抜ける。

 俺は礼奈の腕を掴むと、ビルとビルの間に滑り込んだ。


「……離して」


 礼奈は口を尖らせ、プイッとそっぽを向いた。


「あのな、黙って映画館を飛び出すなんて、わけわかんないよ。俺だって色々我慢してんだよ。大体シアターでキスなんて、そんな非常識なことはできないだろう」


「……我慢しなければいい」


 はぁ?

 どこまで、挑発的なんだよ。


 この憎らしい唇を今すぐ塞いで、お仕置きしたい。

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