キスはハチミツレモン味なのか教えて下さい。

10

 【礼奈side】


 創ちゃん、ありえないよ。


 映画館の場内でせっかく勇気を出して、創ちゃんと手を繋いだのに。


 スーッと創ちゃんの顔が近付いて、瞼を閉じたら、創ちゃんはスーッと私から離れた。


 うそっ……。


 創ちゃんに、私は女性として見られてないんだ。


 友達の言う通りだよ。創ちゃんはきっと他に好きな人がいるに違いない。


 そうに決まってる。


 創ちゃんはリスみたいにガリガリと音を鳴らしてジュースの氷を食べている。中学生の私と恋愛映画なんて、見たくなかったに違いない。


 悲しい映画じゃないのに、涙がポロポロと溢れてきた。その涙は頬を伝いポトポトと手の上に落ちた。


 突然泣き始めた私に、創ちゃんが隣でオロオロしている。


「……れ、礼奈どうしたの? どこか痛むのか?」


 創ちゃんが私の肩に手をかけた。


 痛いよ。

 創ちゃん……。


 心が……。

 痛い。


「……創ちゃ……ん、私のこと本当は嫌いなんでしょう」


「何でだよ? 嫌いなわけないだろう」


「ほんとぅ……?」


「嫌いな子と、一年も付き合わないよ」


「だったら……キスして……」


 映画館の中は暗い。

 周囲の人はスクリーンに見入っている。


 だから、一生分の勇気を振り絞り、大胆なことを言ってみた。


 スクリーンの中でも、主人公がキスをしている。あんなロマンチックなファーストキスを私も体験してみたい。


 泣いている私に、再び創ちゃんの顔がゆっくり近付いた。私は瞼を閉じる。


 数秒後、私の額でチュッて音がした。


「……っ」


 嘘でしょう? 私のことを子供扱いしてるの?


 額へのキスももちろん初めてだけど、子供扱いされた気がしてちっとも嬉しくない。


 感情が込み上げ、涙がドッと溢れ出す。


「もういい。創ちゃんは私のことちっともわかっていない。創ちゃんなんか大嫌い」


 本当は大好きなのに。

 私、なに言ってるんだろう。


「……礼奈」


「もぅ……帰るね」


「帰るって映画はまだ途中だよ。礼奈、待てよ」


 私は椅子から立ち上がった。映画なんてもうどうでもいい。映画はハッピーエンドだけど、私はバッドエンドだ。


 私は非常灯の明かりをたよりに、そのまま一人で出口へと向かった。

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