13

「そうだよな。味なんてしないよな」


「友達がね、ハチミツレモン味がするって言ったんだよ」


「ハチミツレモン味? それ、キスする前にハチミツレモンを飲んだからだろう」


「……そうなの? だったら映画館で創ちゃんが飲んだコーラの味? 全然わからなかった」


「緊張してたからわからなかっただけだよ」


「だったら、目を開けてるからもう一度してみて」


「……ぶっ、も、もう一度!?」


 それは無理だよ。

 いくら鈍感な礼奈でも、もう一度指先で触れたらキスをしてないことがバレてしまう。


 礼奈はファーストキスをしたと思っているから、いまさら「噓でした」とも言えない。


 俺は礼奈の額にチューッとキスをした。


 映画館でした時よりも長いキスだ。俺の唇が俺の理性とは真逆の行動をし、礼奈の額から離れない。


 まるで蛸の吸盤が、礼奈の額に張り付いたみたいだ。


 ば、ばかやろう……。

 何をやってんだ、オレ。


 お前はじゃない。

 なんだよ。


 やっとの想いで礼奈から離れると、礼奈が不満げに俺を見上げた。


「さっきはキスをしてくれたのに。どうしておでこなの?」


 微かに開いた唇。悩まし過ぎて俺は悶え死にしそうだ。


「礼奈、ごめん。さっき……礼奈の唇にキスをしたのは俺の指先なんだ。俺、礼奈のことが好きだから。まだ我慢するよ」


「……創ちゃんの嘘つき。だからコーラの味がしなかったんだね」


 礼奈が口を尖らせた。


「映画館で飲んだコーラの味がするのか、確かめたかったのに」


「ごめんな」


 キスは実験じゃないから。


「礼奈のこと、子供だと思ってるんでしょう。だからあんな悪戯したんだ」


「礼奈はまだ中学生だから、キスはまだおあづけ」


「我慢は体に悪いのに。早死にしても知らないからね。嘘つきは閻魔大王に舌を抜かれるんだよ」


 礼奈は俺の唇をツンツン指先で突く。


 ……っ、俺の理性を崩壊させる気か。


「それでも楽しみは先にとっておきたいから」


「本当に礼奈のことが好き?」


「好きに決まってるだろ」


 礼奈が口元を緩ませてニヤッと笑った。

 可愛い顔が艶っぽく見えてしまうのは、俺が悶々としてるから?


 『創ちゃんには我慢出来ないよ』って、礼奈の目が語ってるようだ。


「創ちゃん、映画館を途中で出てごめんなさい。DVD借りて創ちゃんちで一緒に観たい。礼奈は恋愛がいいな」


「はっ? 俺んちで?」


「ねっ、いいでしよう」


 ねっ、て。

 なんの


 『いいでしよう』って、何がいいんだ?


 これも姫の誘惑ですか?


 負けないぞ―……。


 どんなに色っぽい目で迫っても。

 どんなに可愛い顔で泣いて困らせても。


 俺は礼奈の誘惑には屈しない。

 俺の理性は最強なんだから。

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