「どうして何もしてくれないの?」


「……っ……な、な、何もって?」


「キスとか……だよ。創ちゃんてさ、どこか体が悪いの? 女子には興味ないとか? まさか、男子に興味あるとか!?」


 はぁ……? バカじゃねーの?


 できることならば、今すぐにでも礼奈を襲いたいっつーの!


「なんでかな?」


 礼奈は少し拗ねたような眼差しで俺を見つめた。


「あのな、俺は礼奈の事を大切に思ってるんだよ。それに、俺は決めてるんだ」


「何を決めてるの?」


 礼奈が首を傾げ俺を見上げた。そんな可愛い顔を俺に向けるなってば。


「礼奈が大人になるまで、俺は何もしないって決めたんだよ」


「ウソだぁ〜」


 キャハハと礼奈が笑った。

 笑い転げてる姿は、まだまだ中学生だ。


「嘘じゃないよ。敏樹としきと約束したんだから」


「えー!? お兄ちゃんと約束?」


「そうだよ。あの鬼瓦と約束したんだ」


 礼奈は俺の親友敏樹の妹。

 敏樹は中学生からのダチ。だから礼奈が小学生の頃から知っている。


「つまんないよぅ〜」


 鼻に掛かった甘ったるい声で、礼奈が俺を見た。礼奈と俺の唇は数センチしか離れていない。


 コイツわかってるのか?

 その仔猫みたいな目とその声が、どれだけ俺を悩ませているのか。


 ……本当に罪だよ。罪。


「ねぇ、キスってどんな味なのかな?」


 礼奈が俺の耳元で囁いた。


「んぐっ……」


 や、止めて下さい。俺を誘惑するのは。


「ねぇってばぁ……創ちゃ〜ん」


 もう……止めて下さい。

 俺……気が狂いそうです。


 俺の頬に顔を近づけて、礼奈はニッて笑った。


 白い肌にサラサラの髪、ふっくらとした唇。細いのに均整のとれた体。


 ――ゴクリ……。


 これでは、蛇の生殺しだ。

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