第5話 死んでも生きたい

 死ぬ夢は吉夢だというが、やはり気持ちの良い物では無い。朝、一度死んだ体を起こして、どこかへ行ってしまった魂が戻ってくるまで布団の上であぐらをかく。ああ夢だったのかと、そればかりを繰り返し繰り返し、夢の終わりに上書きするように脳へ刻み込む。その後で、なんであんな夢を見なくちゃいけないんだ、と自分で自分に憤る。朝から無意味に自己嫌悪に陥り、気が滅入る。目覚めが悪いと休んだ気がしない。その一日は最悪のスタートを切ることになる。

 記憶の中でもっとも古い『殺された夢』を思い出してみる。確か保育園の頃、侍に斬られる夢だったか。その次は怪物に丸呑みにされる夢。最新版はマフィア映画よろしく銃撃戦で撃ち抜かれる夢。いずれも死の瞬間には恐怖があった。物を書く身としては、死の瞬間を体験できてラッキーとも思ってしまう。寝起きの後味の悪さは別として。

 死、死、死。うん、怖い文字だ。小学生の時、生徒間での悪口が問題になって、『死ね、という言葉はとても悲しい言葉です。決して使ってはいけません』と先生が怒っていたのを思い出す。

 死ぬこと、消えること、亡くなること。人ひとりがこの世からいなくなること。

 恐ろしい。

 何かの、誰かの手によって、自分の命が奪われること。

 これは更に恐ろしい。

 でも、ああ死にたくないなぁ、なんて素直に怖がっていられる今の自分は、きっとあの頃より幸せなんだろうとも思う。

 死にたくない。もっと自分の出来る事をしたい。楽しみたい。毎日毎日、生きていたいと思う日々だ。

 死ぬ夢は好転の兆しだという。あるいは変化を望んでいる、だとかなんとか。

 死ぬ事が変化であるなら、目覚めた後の私はアップデートされたものだと言えないだろうか。私は何回アップデートされたのだろうか。される度、生きたくて生きたくて堪らなくなっているのではないだろうか。

 そう考えるなら、目覚めの悪さも受け入れるしかない。良薬口に苦しと言うじゃないか。

 ああ、死にたくない。そんな思いを強く抱きながら、私は死ぬ夢を見る。死にたいと思っていた昔の私から変わる為に。

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時々やってくる悪夢が嫌い 城戸火夏 @kidohinatu

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