第20話 戦術六号

蓮がそう唱えた瞬間、彼を貫こうとしていた剣が、見えない何かに弾かれた。

完全に殺ったと思っていた大月にわずかだが隙が生まれる。その隙を見逃さず、蓮は手のひらを大月の中心に向かい掲げ、わずかに集中する。その間コンマ1秒ほど。


「ごァっ!」


見えない衝撃により大月が唐突に吹き飛ばされビル群の壁に激突する。

その凄まじい威力により壁面が砕け、大月はビル内で倒れ込んだ。

さらに、蓮は間髪入れず追撃を加える。手のひらを大月のいるビルに向けたまま再度集中する。


「六号 墜(つい)」


今度は大月の真上から先ほど以上の衝撃が加えられる。

その凄まじい威力により、床にクレーターが広がりビルごと破壊していく。そして廃ビルは轟音を立てながら崩れ、床で転がる大月を生き埋めにしてしいく。


大量の土煙が立ち込める中、一瞬の静寂があたりを包む。

蓮は崩れたビルを数秒見た後踵を返す。


「六号 解(かい)」


歩く蓮の隣で粒子が集まりいつものクロユリが形成されていく。

(少し力を使いすぎた。さすがに疲れたな。)

内心でそう思いながらふと前に意識を向けると、離れた場所で心配そうに見ていた六花が小走りで近づいていくる。


「倒したの…ですか?」


「さぁな、奴の力を考えると死んでいるとは考え難い。だがかなりのダメージを与えた。回復するにしても時間がかかるだろう。奴が復活する前にここを去るぞ。」


蓮は軽く大月が埋まっているビルを一瞥し踵を返す。



「あの人は結局なんだったのでしょう?」


六花は明確な答えなど帰ってこないことを分かっていたが、それでも聞かずにはいられなかった。それほどまでに衝撃的な人物だった。


蓮は少し間を空けて口を開く。


「正確には分からん。だが戦ってみた印象としては、あれは人の形をした憎魔だ。肉体強度・再生能力どれを取ってもカルマの比ではない。しかし分からん事の方が当然多い。憎魔の捕食、スペリオルにも似た武器の使用。憎魔から人の姿へと進化したのか、元は人間だったのか。」


そこまで言い、蓮は一度口を閉ざす。


「まあこういうのは専門家に聞くのが一番だ。収穫もあったしな。」


蓮は小さなカプセルを取り出し六花に見せる。


「それは、血液ですか?」


「そうだ。奴を斬った時に付着したものを回収したのさ。これを京火に調べてもらう。何か分かるかもしれん」


「すごいですね。あの戦闘中にそんな所にまで気を回していたなんて。」


「なに、お互い探り合いしながらだったからな。本気は出したが全力は出してないって奴だ。」


(あのレベルの戦闘が探り合い?相変わらず出鱈目です。)

そして六花はふと思った事を聞いてみた。


「もし、私が全力であの人と戦ったらどうなると思います?」


「それを聞いてどうする?」


「純粋な興味です。贔屓目なしで教えてください。」


蓮は少し考え込み、


「そうだな。今のお前なら目の力を使っても、持って1分が関の山だろうな。」


(以前見た六花の中にいる怪物が出れば話は別だが…)

蓮は内心でそう考えてもいたが、六花の意思で制御できている訳でなく、今言ったところで意味もない。


「やはり、その程度ですか。」


六花は少し俯き沈黙する。


「今後、あの人と再度戦う可能性も十分にありますよね…」


蓮も少し考え、


「たしかにそうだな。奴は俺に執着しているようにも見えた。今後狙われるのも面倒だ。やはり今止めを刺しておくべきか。」


大月の埋もれたビルに向け歩き出そうとしたが、六花に腕を掴まれる。

振り返ると、不安そうな顔をした彼女が目に映る。


「今日はもう帰りましょう…蓮さん。」


数秒六花の目を見て、


「分かったよ。確かに俺も多少疲れた。」


蓮は諦めて大人しく帰路に着くことにした。

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白の魔人と黒の花 川平織 @kawamon

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