第12話 再生
どのくらい走っただろうか。
さすが鬼神の体というべきか息切れ一つない。
何かが見える。
黄金色の大樹だ。
「これが、六趣の木……」
貴史が木に近付くと、木の幹がズゴゴゴゴと大地を響かすような音をあげ、幹に人間が入れるほどの穴が開いた。
虹色の空、雲の大地。心地良い空気、貴史は大きく目を開き、そして深呼吸し、それらを身体中で感じていた。
そして六趣の木の中へ、足を踏み入れた。
外側は黄金なのに、中は真っ暗な六趣の木の幹の中。
貴史はそこで座禅を組み、瞑想するかのように目を閉じた。
根のようなものが、内部のあちこちから突き出てきて、ゆるりゆるりと貴史を突き刺していく。
「痛いなぁ…… 」
貴史は、徐々に力が抜けていくその中で、流美や裕之の事を考えていた。
「これで、あの2人も、死んでしまった全ての人達も、生き返るんだよな。 俺だけが存在しなかった世界として再生するんだよな。 流美と裕之、結ばれれば面白いのにな。 裕之は流美が好きだったしなぁ。」
貴史は少し笑みを浮かべ、そのまま意識を失っていった。
六趣の木の輝きが増し、黄金の葉から、光の幾千もの粒子が、虹色の上空を突き破るかのように舞い上がった。
ほどなく、六堂の世界全てに、光の雨が降り始め、それは三日三晩続いた。
そして全てのものは消滅し、再生をされた。
何事もなかったかのような平和な日常の世界が戻ったのである。
とある教会、結婚式。
そこにはタキシード姿の裕之とウエディングドレス姿の流美がいた。
二人とも満面の笑顔、本当に幸せそうに思えるほどの。
今の世界に、貴史の心の影響が、どの程度出ているのかは、前の記憶のない全ての者には分からない。
けど、貴史はきっとこう思っているはず。
本物の、笑顔に溢れた世界になりますように。
そして
裕之、流美、お幸せに。
六趣の木 いつかの喜生 @yoshikun3
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