最終話 決着
悪魔のウレナはとある街の裏路地にて空腹で倒れていた。
「くそぉ、悪魔だからって追い出しやがってぇ」
彼女は魔界から息抜きに人間界に降りてきて、せっかくだから美味しいものを食べようとレストランに入ったのが一週間前。
この一週間どこの店も悪魔だからと強引に追い出されてしまった。
たしかにかつては虐殺はしていたがそれは数百年前の大戦の時だ。
しかし人間にとっては悪魔=悪い奴となっているのだろう。
「もうこんな街、滅ぼしてやろうかな」
「あの、大丈夫ですか」
彼女のそばに一人の子供が近づいてきていた。
まだ四歳の彼テトは悪魔のウレナに手を差し伸べる。
そして彼の家に連れて行かれ料理をご馳走になった。美味しかった。
これがウレナとテトの出会いである。
しかしテトは幼少の時の話なので覚えていないだろう。
天使のリリスは天界から人間界を見ていた。
そしてたまたま十歳のテトに目が行き一目惚れした。男のくせに可愛く、悪いことには悪いと言える勇気があって、いろいろ含めて私の心にドストライク。
それからよく彼を監視するようになったが、悪魔が彼の近くにいたので悪魔から守るために人間界へ降り彼に接触した。
二人にとってテトは初恋の人である。
だからこそテトを巡ってちょくちょく喧嘩をしている。
今日も今日とて些細なことで喧嘩をしていた。
「だからー、堕天使は帰れって言ってんの!」
「はあ!? 私は堕天使じゃありません。ちゃんと天使です!」
「テトにコビを売っといて、堕天していないとか」
「コビは売ってません! あなただって彼にセクハラしてるじゃないですか!」
「はあ! 何がセクハラなんだいっ」
「腕に引っ付いたりです」
「あれはテトが嫌がってないからセクハラじゃないね。お前の方こそテトを困らせていただろう」
「それは私に胸があるからです。あなたは……ふっ」
リリスはウレナの胸を見て嘲笑う。
「ッッ!? お前! 殺す!」
「ああ? やれるもんならな!」
「あの、お二人共ここで何をしているんですか」
「「ッッ!?」」
「テ、テト!? なんでここに!?」
「なんでってイリヤさんに素材の回収をお願いされて、ここからの景色が綺麗なので帰りに見ていこうと……」
ここは街から少しばかり離れた丘の上で、ここからはちょうど街を見渡せる。
「ところでお二人はなんで喧嘩をしていたんですか? いつも仲はいいのに」
二人はテトの前では仲がいいふりをしていたが、実際は犬猿の中である。
「え、いや、これは、そのっ」
「ち、違うのよ、テト君っ、えっと、そのっ」
喧嘩しているところを見られてしまった二人は口どもる。
そして――
「「ごめんなさい」」
どちらからともなく謝る。
「謝るのは僕じゃなくて相手でしょう?」
「「はい」」
「堕天使と言ってごめんなさい」
「こちらこそ貧乳と言ってごめんなさい」
あれほど仲の悪かった二人がテトに言われて素直に謝る。それほど二人にとってテトは大事なのだろう。
「それでなんで喧嘩してたんですか?」
「え、いや、それは、その……」
「テト君についてよ」
「えっ」
「私たち、テト君を異性として好きなの」
「言っちゃったよこいつ」
「お二人とも僕のことが?」
「ええ、そうよ」
「そうだよ」
テトは恥ずかしそうに目を逸らす。
「この際だから言うわ。テト君、私と結婚しましょう」
「は? テトはボクと結婚するのっ」
「私です」
「あの、結婚は僕も嬉しいですけど喧嘩しなくても」
「だって悪魔にテト君とられたくないし」
「天使にテトとられたくないし」
「……一応一夫多妻認められてますよ」
「「へ?」」
「僕もお二人のことまだよく知らないのでまずは恋人から始めましょう」
「「……一夫多妻? テト(君)と恋人?」」
「いや、ですか?」
「……そうね。結婚は早急すぎたわね」
テトはリリスとウレナを恋人にすることでその場を収めるのだった。
かくしてリリスとウレナの恋の争奪戦は和解して解決したのだった。
天使と悪魔の恋の争奪戦 和泉秋水 @ShutaCarina
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