腹黒ドS系生徒会長の場合①


この優秀な人物だらけの学校には、財閥と呼ばれる家の子息、子女たちも通っている。生徒会長、鳳タイガは、その中でも特に大きな鳳グループの会長の息子であった。

昔から社交という場で荒波に揉まれたお陰か、可愛げのない、というかだいぶひねくれた性格になったとタイガも考えている。いわゆる腹黒という奴である。

そんな彼は密かにとある生徒を生徒会に入れようと策を立てていた。

その生徒は普通の家の出身で、ほかの生徒会のメンバーとも明らかに格下の家だ。けれど、婚約者である少女がある時その生徒の武勇伝を話し、その生徒に興味が湧いたのだった。

名前は雨宮美咲。目の肥えたタイガから見てもかなりの美少女だった。自分の婚約者と話しているところに乱入した形ではあったが、少し話をして、食えないやつ、と思った。

タイガのことを流れるように賛辞するが、媚びを売る様子も、皮肉を言っている様子もなかった。タイガだから気づけたことかはわからないが、彼女は当たり障りのない会話、を完全に成立させていたのだ。タイガも婚約者から武勇伝を聞いていなかったら騙され、つまらない生徒だと認識していたことだろう。

そしてそれに気づいた時、タイガはひどく新鮮だった。自分に靡かず、それでいて無関心を貫く姿勢は初めて見たからだった。


そしてタイガはいくつかの策を立てた。もちろん美咲を生徒会に入れる策だ。

実は教師や婚約者を通して入らないかと誘ったことはあった。しかし色よい返事は帰ってこなかった。

だからタイガは最終手段、逃げられない状況を作り出すことにしたのだ。

それはタイガほどのお金持ちだからこそできる、借金を作らせることだ。まるで悪徳業者のようだが。


方法は簡単。入り口近くに高価な壺か何かを置き、壊させるのだ。もちろんわざとである。勿体無いので安めでお洒落な見た目の壺にしようと決めた。

シミュレーションをしてみると、彼女は誘いを断った後、生徒会室を出ようとするが、何故か通り過ぎた時に壺が落ちて割れた。あっけに取られた彼女にこれはとても高かったのだと嘘の値段をふっかけ、払えないことを確信してから代わりに生徒会に入らないかと持ちかける。すると……。


『これ、確かに見た目だけ凝ってますけど言っている値段の十分の一にもなりませんよね?そんな嘘までついてどうなさったのですか。それとも本当に値段がわからなかったとか?すみません、まさか天下の鳳グループのご子息様がこんな簡単なものの値段もわからないとは思いませんでしたので。』


めっちゃ言い返された。おかしい。ここは分かりましたって答えるはずなんだが。え、すっごく納得したしすごく簡単に、想像するまでもなかったんだけど。そう考えながらもタイガはもう一度やり直す。ただし壺の値段はあげて。およそ50万はくだらないものに。


そしてさっきと同じように続けていき、件の分岐点に行くと………。


『そんなにお高いものだったんですね。でもおかしいですね?生徒会に置くには少々どころかかなり高価ですし、何よりそんな値段のものにこんな簡素な保管方法だなんて。私が通り過ぎたくらいで落ちてしまうようなら、震度2程度の地震が来ても真っ先に落ちるでしょうに。それとも天下の鳳グループのご子息様にとって、これくらいの値段にそんな手間暇はかけられないのでしょうか?でもそれだと私が体で返す必要ありますか?』


痛いところをつかれた。ぐうの音も出ない。ありませんって言うしかないじゃんこんなの。一応これシミュレーションであって、ここまで本格的な応答よく出るね?ねぇ?


実は美咲がここまでタイガにきつく、というか上げ足を取るような言葉を放ったことはないのだが、タイガの優秀な頭は、食えないやつだ、と正しく認識していた。が、タイガはそう自分が考えていることに気づいていなかった。いや、自分の予想を超えるかもしれないことを考えたくなかったのかもしれない。


少し、いやかなり精神的に疲弊したタイガは最後に、真摯にお願いするという案でシミュレーションした。すると…………。


『興味ないですね』

『ごめんなさい、性に合わないんです』

『忙しいので断らせていただきます』

『生徒会に加入だなんて、誘っていただきありがとうございます。とても光栄です。辞退させていただきます。』


……………。どうすればいいんだよ。迷うそぶりもないんだけどなぁ。一応花形なんだけど?みんな俺たちにお近づきになりたいって目指しているんだけど?



そんな時、生徒会のドアをノックする者がいた。タイガに呼び出された美咲である。ちなみにタイガが百面相している間に生徒会メンバーは集まってきている。


予想通りに誘いは一も二もなく断られ、彼女が壺の横を通る時、透明な糸でツボの土台を揺らした。そしてゆっくりと壺が傾き、策を知らないほかのメンバーが目を見開くと……。



美咲はちらりとその壺の落ちる方向を見、少し体をその方向へ向けたかと思うと、すっと膝を曲げてすぐに片手を伸ばし、その手で危なげなく壺を掴んだ。片手で持てるように作られていないのだが、それを感じさせないバランス感覚の良さを発揮しているため問題なかった。タイガの婚約者、梓以外が呆気にとられ、梓は拍手をしていた。


美咲はその壺を元の位置に丁寧に置き、礼をしてから部屋を出ていった。







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ハイスペック美少女は恋愛フラグを立てさせない オリビア @oribia

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