ハイスペック美少女は恋愛フラグを立てさせない
オリビア
爽やかイケメン同級生の場合①
爽やかが服をきている、と評される橋本南はちらりと後方で話している女子たちをみる。
華やかな空間の中心にいるのは、南が今気になっている女子であった。
彼女の名は雨宮美咲。レベルが高いと言われるこの学校の中でもトップクラスの容姿と頭脳、運動能力を誇るハイスペックな女子だ。もちろんモテるのだが、告白して成功したものはまだ誰一人としていない。そこで南はアプローチの仕方に悩んでいた。正攻法ではダメなのではと考えてしまうほど、一筋縄ではいかない雰囲気が出ているのだから。
実は、南は美咲と学校以外で出会ったことがある。といっても通学路なのだが。
帰りにジュースを飲みながら歩いていた美咲にジョギング中の南がぶつかったのだ。お陰で南の来ていたジャージはびっしょりと濡れてしまった。申し訳なさそうに頭を下げる美咲はとても可愛らしく、守ってあげたくなるような雰囲気だった。
ここで、美咲が自分のハンカチを差し出し、拭くか貸すかをしていれば会話のきっかけになるのだが、実際の美咲はというと………。
ティッシュを差し出した。広告付きの。ふと南が彼女の後方を見ればティッシュ配りをしている女の人が。美咲が困ったように微笑めば、南は感謝を述べながら思わずそのティッシュを受け取った。気にしないでほしいと言えば彼女は安心したように笑顔を彼に向け、去っていった。
南は理不尽だと知りながらもこんな場所でティッシュ配りをしている人物に呪詛を吐いてしまいそうだった。
そういうわけで、会話のきっかけになるものなどなかった。強いて言えば、美咲が翌日に『昨日はごめんね。跡にならなかった?』と聞いてきたのだが、何故だか南は『大丈夫』としか言えなかった。何故そこから会話を繋げられなかったかは南にも分からなかった。
ティッシュを返すわけにもいかないのであの時の話題はもう掘り返せず、世間話程度しかできないただのクラスメートの距離なのだ。
仕事を手伝おうにも彼女は優秀で気付けばすぐに終わってるし、大体女子たちに囲まれているしで打つ手がない。
そんな南に、新たなチャンスがやってきた。
本を返しに行った図書室で美咲が勉強をしているのを見つけたのだ。これはいける、と確信しながら近くの席に行き、話しかけた。
「雨宮、奇遇だな」
緊張からか少し震えた声が出たことに後悔しながらもそれを表に出さないように努めた。
「橋本くん」
美咲が自分の名前を呼んでくれたことを嬉しく思いながら南は正面の席に座り、会話を続けようとする。
「もう試験勉強?早いな」
「ううん、違うよ。これは梓ちゃんのノート。休んでいたから作っておこうと思って」
梓とは斉野梓という、今学校でも有数の富豪の家の長女である。鳳グループの跡取りと婚約をしているらしい。そんな彼女は大きなパーティーに呼ばれているらしく今日は珍しく欠席。他にもそのパーティーのために欠席する生徒がいて、今日は生徒会の人がほぼいない状態だ。
「優しいんだな」
「梓ちゃんは友達だもの。これくらいして当然でしょう?」
梓のために放課後にノートを作る美咲を見ていうと、美咲はニコリと笑って言ってからまたノートを書き続け、その顔が見れなくなった。それを南は残念に思いながらも美咲の手元をじっと見つめていた。
梓という生徒はお金持ちの家で育ったというのに普通の家柄の女子のそばにいることが珍しいと有名だ。側から見ていても美咲を心から慕っているのが伝わってくる。一部では親衛隊隊長だと呼ばれているくらいだ。他にも多くの女子は美咲に憧れていたりする。仲良くなりたいと、美咲の周りにはいつも女子の壁がなくなることは授業中以外はほぼない。疲れていないのかと思っていたがちゃんと友達だと思っていたのか。
そんな失礼なことを考えながらも視線は熱を孕み、美咲から目を離さない。それを見ていた図書室にいた生徒達は二人の関係を邪推しようとしたが、その後の美咲の行動によってそれはなされなかった。
よし、と言いながらノートを作り終えた美咲は目線を上げ、目の前でじっと彼女の方を見る南と視線が合った。そして目を見開き一言。
「橋本くん、まだいたの?あ、勉強しに来たのかな?」
そして言葉を続ける。南の前の机に何も置いていないことを認識しながら。
「私がいたら集中出来ないか。じゃあ私はやること終わったし帰るから気にせずに始めてね」
まるで悪意もない心遣いに否と言えるはずもなく、泣く泣く南は一人勉強を始めたのだった。
その姿に事の成り行きを見ていた生徒達は南に同情したという。
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