【15-6】人探し 中
【第15章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859351793970
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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帝国東征軍の軍議は、
先任参謀・セラ=レイス中佐の部下たちは、気分転換のため、屋外に出ることにした。
キイルタ=トラフ中尉は表に出ると、その大きな胸元を下げ深く息を吐いた。肺腑に溜まった
次いで仰ぐようにして息を吸う。胸の奥に流れ込む冷気が清々しい。
総司令部が置かれた中央礼拝堂は、広場に面していた。だが、手狭なノーアトゥーン城内である。ここも帝国軍の幕舎やテントで埋められていた。
もともとは、憩いの広場であり、公共の用に供された道路でもある。テント群の合間に確保された通路を、王都の領民たちが行き交っていた。
そのほとんどが女性であり、わずかな食料品を手に下げている。彼女たちは、決して帝国兵の方には視線を向けないようにして、足早に歩き去っていく。
女性士官のトラフに対しても、迷惑そうに
彼女たちは長引く戦争により、夫や父を亡くした者たちなのだ。平原各都市の悲惨な末路を知っているはずであり、日中であっても外など出歩きたくもないのだろう。
――
おまけに、帝国軍の胃袋が増えた分、食糧不足はさらに深刻となり、その値段は上がるばかりである。
トラフは往来の邪魔にならない場所でしゃがむと、左右の頬を両手で包みながら、広場を見つめる。
小隊ごとに夕食づくりが始まったのだろう。そこかしこで、炊煙が上がっている。
目の前のかまどにも火が点けられていた。炎の合間に見えるのは、女神の翼の一部だろうか。
【15-5】人探し 上
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428436437790
彼女が礼拝堂の入口に視線を向けると、先任参謀がふらふらと表に出てくるところだった。間もなく夕方だというのに、レイスは寝起きのように両目をしょぼつかせている。
「それにしても、ミーミルさんは人気者ですねぇ」
眠そうな紅髪の上官に、参謀・ニアム=レクレナが慕わしげに声をかけている。蜂蜜色の髪を持つ女少尉は、いつも彼との距離が近い。
「ヴァナヘイムの為政者どもは、救国の英雄の身柄を、切り札として使おうとしているのだろう」
紅毛の乱れた首を回し、凝りをほぐしながらレイスは続ける。
「審議会の連中――特に農務大臣、あの爺さんはなかなかしたたかだよ。いまの俺たちには、この国を一挙に乗っ取るだけの力がない、と見抜いていやがる」
帝国軍の将校は、ヴァナヘイム国・審議会への参加が許されている。
参謀たちは、議場の片隅にいた胡麻塩頭の男――その小柄で頑固そうな風貌――を思い浮かべているようだ。
農務相は、国政統治のなかで有利な条件を、帝国から巧みに引き出そうとしている。アルベルト=ミーミルの身柄という伝家の宝剣を「抜くぞ、抜くぞ」とちらつかせながら――。
「ミーミルさんをどこに隠しているのでしょうか」
レクレナの質問は核心をついていた。
彼を捕まえてしまえば――宝剣を取り上げてしまえば――審議会は詰むのだ。
「さてな。だが、この大して広くもない王都のどこかにいるんじゃないか」
そう言うや、レイスは真剣な表情で周囲を見回し始めた。案外、その辺りを歩いているかもしれんぞ、と。
「えー、この街のどこかにですかぁ!?」
「そうか……この王都のどこかにいるのですか」
レクレナにつられ、興奮をおさえられず口を開いた参謀・アシイン=ゴウラを、レイスはそそのかす。
「もしかしたら、すれ違ったかもしれないぜ」
3人のやり取りに、他の参謀たちも、思わず往来を見入ってしまう。新聞で見た敵総司令官の容姿を、脳裏に浮かべながら。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
胸糞悪いやり取りばかりの軍議に、トラフはうんざりしているな、
そんな軍議など、レイスのように居眠りした方が賢いのでは、
そう思われた皆様、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
トラフたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「人探し 下」お楽しみに。
間近に迫った蜂蜜色の頭越しに指を指して、突然レイスが叫ぶ。
「あ!あそこを見ろ!
「えっ?」
「へっ?」
「本当にいた!?」
紅毛の上官の発声に、参謀たちは飛び上がるようにして一斉に反応する。
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