【15-6】人探し 中

【第15章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 帝国東征軍の軍議は、暫時ざんじ休憩となった。


 先任参謀・セラ=レイス中佐の部下たちは、気分転換のため、屋外に出ることにした。


 キイルタ=トラフ中尉は表に出ると、その大きな胸元を下げ深く息を吐いた。肺腑に溜まった瘴気しょうきを追い出すかのように、ゆっくりと。


 次いで仰ぐようにして息を吸う。胸の奥に流れ込む冷気が清々しい。



 総司令部が置かれた中央礼拝堂は、広場に面していた。だが、手狭なノーアトゥーン城内である。ここも帝国軍の幕舎やテントで埋められていた。


 もともとは、憩いの広場であり、公共の用に供された道路でもある。テント群の合間に確保された通路を、王都の領民たちが行き交っていた。


 そのほとんどが女性であり、わずかな食料品を手に下げている。彼女たちは、決して帝国兵の方には視線を向けないようにして、足早に歩き去っていく。


 女性士官のトラフに対しても、迷惑そうに一瞥いちべつをくれるだけである。


 彼女たちは長引く戦争により、夫や父を亡くした者たちなのだ。平原各都市の悲惨な末路を知っているはずであり、日中であっても外など出歩きたくもないのだろう。


 ――帝国軍われわれが居座っているおかげで、中央広場ここで夕市も開けていない。


 おまけに、帝国軍の胃袋が増えた分、食糧不足はさらに深刻となり、その値段は上がるばかりである。



 トラフは往来の邪魔にならない場所でしゃがむと、左右の頬を両手で包みながら、広場を見つめる。


 小隊ごとに夕食づくりが始まったのだろう。そこかしこで、炊煙が上がっている。


 目の前のかまどにも火が点けられていた。炎の合間に見えるのは、女神の翼の一部だろうか。


【15-5】人探し 上

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 彼女が礼拝堂の入口に視線を向けると、先任参謀がふらふらと表に出てくるところだった。間もなく夕方だというのに、レイスは寝起きのように両目をしょぼつかせている。


「それにしても、ミーミルさんは人気者ですねぇ」

 眠そうな紅髪の上官に、参謀・ニアム=レクレナが慕わしげに声をかけている。蜂蜜色の髪を持つ女少尉は、いつも彼との距離が近い。


「ヴァナヘイムの為政者どもは、の身柄を、切り札として使おうとしているのだろう」


 紅毛の乱れた首を回し、凝りをほぐしながらレイスは続ける。


「審議会の連中――特に農務大臣、あの爺さんはなかなかしたたかだよ。いまの俺たちには、この国を一挙に乗っ取るだけの力がない、と見抜いていやがる」



 帝国軍の将校は、ヴァナヘイム国・審議会への参加が許されている。


 参謀たちは、議場の片隅にいた胡麻塩頭の男――その小柄で頑固そうな風貌――を思い浮かべているようだ。


 農務相は、国政統治のなかで有利な条件を、帝国から巧みに引き出そうとしている。アルベルト=ミーミルの身柄という伝家の宝剣を「抜くぞ、抜くぞ」とちらつかせながら――。



「ミーミルさんをどこに隠しているのでしょうか」

 レクレナの質問は核心をついていた。


 彼を捕まえてしまえば――宝剣を取り上げてしまえば――審議会は詰むのだ。


「さてな。だが、この大して広くもない王都のどこかにいるんじゃないか」

 そう言うや、レイスは真剣な表情で周囲を見回し始めた。案外、その辺りを歩いているかもしれんぞ、と。


「えー、この街のどこかにですかぁ!?」


「そうか……この王都のどこかにいるのですか」


 レクレナにつられ、興奮をおさえられず口を開いた参謀・アシイン=ゴウラを、レイスはそそのかす。

「もしかしたら、すれ違ったかもしれないぜ」


 3人のやり取りに、他の参謀たちも、思わず往来を見入ってしまう。新聞で見た敵総司令官の容姿を、脳裏に浮かべながら。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


胸糞悪いやり取りばかりの軍議に、トラフはうんざりしているな、

そんな軍議など、レイスのように居眠りした方が賢いのでは、

そう思われた皆様、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


トラフたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「人探し 下」お楽しみに。


間近に迫った蜂蜜色の頭越しに指を指して、突然レイスが叫ぶ。

「あ!あそこを見ろ!ミーミルやっこさんらしい姿を見つけたぞ!」


「えっ?」

「へっ?」

「本当にいた!?」

紅毛の上官の発声に、参謀たちは飛び上がるようにして一斉に反応する。

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