【13-31】絵地図 上

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 小雨をついて、早馬がエドラ城塞に駆け込んだ。


 この火急便によって、1枚の絵地図がの参謀部へもたらされる。差出人は、悪臭騒動の調査のため、ドリス城下に派遣されていた参謀見習い・ソル=ムンディルであった。


【絵地図】ドリス城塞都市

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652163432607



 その絵地図は、同城下街における建物が詳細に記されたものであり、要所要所に赤い印が落とし込まれていた。


 赤い印について、少女の書き添えでは、「悪臭騒動のあった家屋の位置を示している」とある。そして、それら印には、以下のような特徴が見られるという。


 ・城下街西側の家々に集中している(西の城壁に沿うように印が点々と記されていく)。


 ・建物が密集したエリアの中心には、概ね存在する。

 

 ・城下街中央や東側でも、大通り沿いの建物に多数確認される。



 ソルから送られてきた絵地図を囲んで、先任参謀・セラ=レイス中佐以下、参謀部の者たちがひたいを集めていた。


 魚油にひたされた大量のわらが、天井裏や床下に仕込まれていた――それが悪臭の元になっていたことも、既に無電をもって彼等には知らされている。



 参謀部(レイス隊)副長・キイルタ=トラフ中尉が、いつもどおり、静かに議事進行をつかさどった。


 先任参謀は、絵地図の南側に腰掛けている。彼女は、その斜め後ろに立ち、1人1人の表情をうかがっていく。


 絵地図の西側に座るニアム=レクレナ少尉が、蜂蜜色の髪を輝かせて、発言の機会を求めている。


 だが、トラフが促したのは、その対面といめん――東側のアシイン=ゴウラ少尉であった。彼は太い首で点頭したあと、口を開く。


「敵は我等を火攻めにするつもりだったのでしょう」

 その手には乗らぬ、と息まいている。


 藁に油……可燃物の塊とくれば、火計を思い浮かべるのは当然のことだ。少女が示した赤い印は、火点と見ていいだろう。



 続いて、トラフの灰色の瞳は、蜂蜜頭……を素通りし、北側に着席するアレン=カムハル少尉を見据える。


「火計を企てるにしては、密度を欠くように思われますが……」

 敵司令官の狙いを見い出せず、カムハルは溜息をついた。


 確かに、城塞都市・ドリス全体を焼き払うには、火点となる家屋が少ないのだ。たとえ、赤い印すべてで発火したとしても、街の一部を焦がす程度で鎮火されるだろう。


 だが、左目にかかった前髪をいじるカムハルは、どことなく嬉しそうだ。直属の部下である少女が、調査をやり遂げ、これほどの絵図を完成させるとは思っていなかったのだろう。



 続いて、トラフは周囲を見回す。蜂蜜頭の女参謀が、妙にキリッとした顔をしているが、に乗らぬようやり過ごしつつ。


 だが、銀色の飾緒を胸に下げた他の者たちの発言も、概ねゴウラ少尉かカムハル少尉に類するものばかりであった。


「……」

「……」

「……」

 次第に言葉を失い、みな黙していく。


 ドリス地方も今朝方、小雨がぱらついたそうだ。ひと雨ごとに気温が下がり、冬の足音が聞こえつつあるものの、降雨という言葉も、炎を用いた計略の想起を阻害する。



 発言者が、途絶えた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レクレナの顔芸をもう少しご覧になりたい方(次回も続きます…)、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「絵地図 下」お楽しみに。


仕方なしにトラフは絵地図の西側・レクレナ少尉を見やり、ぎょッとする。


副長にこちらを見てもらえるよう、いよいよ彼女は、こちらに大袈裟にウィンクをしていたからだ。


――くだらない発言であれば、即座に打ち切ろう。

トラフは渋々うなずいた。

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