【13-23】後備え 中

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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 アルベルト=ミーミルにより、作戦が通達されていく。


 ここぞという戦闘前には、副司令でも参謀長でもなく、彼は自らの言葉をもって、将校たちへ伝え届けるのだ。


 概要は、このドリス城塞をに帝国軍の北上を食い止めるというものだった。


 その気宇たるや壮大にして細密――集まった者たちは、みな息を呑む。


 だが、彼の口調は、いつになく活力に欠くものだった。



 若き総司令官を躊躇ちゅうちょさせているのは、次の事情による。


 帝国軍の追撃を鈍化せしむる作戦について、概ね下準備まで終えながらも、立案者たる彼自身が納得できないでいた。


 何より、そのような作戦案を披露した挙句、現場に踏み止まる実行部隊――後備あとぞなえ――の選定をしなければならないことは、慙愧ざんきの念に耐えないのだ。


 兵力増強を済ませた帝国軍は、20万を超える数で押し寄せてくるに違いない。野砲を150門も備えて。


 例え、追撃の足を鈍らせることに成功し、味方の多くが退避できたとしても、最前線でその作戦を遂行した者たちは、圧倒的な敵勢に飲み込まれることになろう。


 「九死に一生」どころか、「十死に零生」となるに違いない――両者の間には以上の距離があるものと、ミーミルは考えている。



「ときに、後備えを担ってもらう者だが……」

 ここで、遂にミーミルは下を向き、黙り込んだ。


 全軍の頭脳として、実行部隊の生還がまったく見込めない策など講じてはならず、

全軍の指揮官として、そのような現場へ部下を差し向けてはならないのだ。


 だからといって、この策を実施せねば、誰かがその役を担わねば、ヴァナヘイム全軍は霧散する――彼の戸惑い・苦悩は繰り返される。




 総司令官の沈黙は、長いものだった。


 将官・佐官の間に、少しずつざわめきが広がる。しかし、ミーミルと目を合わせようとはしなかった。




 そんな折、若い将校2人が願い出た。自分たちが実行部隊として、このドリス城塞に残り、帝国軍を喰いとめる、と。


 顔を上げたミーミルの視界には、ヒューキ=シームルとビル=セーグ――両少佐の笑顔があった。


 戦場での活躍と上官との衝突により、昇格・降格を繰り返す「階段将校」である。裏表なく、あっけらかんとした物言いは、民衆たちからも根強い人気がある。


【10-1】 小さな凱旋 上

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927861948098424




 彼等は、後備えを引き受ける意味を知っている。


 この黒鳶色とびいろの髪を持つ総司令官が、黙り込んでしまった理由も、もちろん心得ている。


 だから、2人は敢えて「食事当番を引き受ける」くらいの口調で、名乗り出てきたのであった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「後備え 下」お楽しみに。


「貴官たちか……」

ミーミルは、2人からの申し入れを裁可すべきか即断しかねた。


「俺ら阿呆だけど、また分かりやすく教えてくださいよ」

「俺ら馬鹿だけど、大将さんの指示どおり、きちんとやってみせますぜ」


言葉も視線もぶれることなく、2人の若者はまっすぐに訴えてきた。

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