【13-3】東都の朝 中

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

====================



 前夜の夜伽よとぎはなはだ不満のアルイル=オーラム上級大将は、性欲を食欲で誤魔化すべく、片手にパン、もう片手にソーセージを掴み、交互にかぶりついている。



 帝国の作法では、身分の高い者が床入りする場合、あかりを落とすことになっている。


 暗闇で相手の容姿も見えない以上、どんな女性を寝台においても、この意地汚いはそれを丸呑みするだけだろう。


 それがを要求するとは片腹痛い。


 はばかることなくよだれをすすり、パンくずをまきちらしながら咀嚼そしゃくする主人を見つめ、ブリクリウは鼻でわらった。しかし、アルイルがナプキンで盛大に鼻をかんだことで、それも掻き消された。



 もちろん、傅役もりやく・ブリクリウは、食事のマナーや夜の行為について指導してきたが、経済学や用兵学以上に、主人・アルイルの理解、吸収にはほど遠かった。


 これら生物としての欲求そのものに関して指導の声を強めると、この主人はいつもヒステリーを起こし、最後には己が持つ最大の権力――生殺与奪権――をちらつかせるほどに見境みさかいがなくなった。


 そのため、閨室けいしつ担当の補佐役が、元側室とという噂だけで処刑されたのは、必然のものだったと言えよう。


 同による射殺は、一度や二度のことでは済まなかった。


 歩くが持つ嫉妬心や猜疑心は常人を超えており、そこに性欲が絡むと異常の域に達する。処刑された遺体は見せしめのため、むごたらしく東都の正門に吊るされた。



 あらぬ疑いをかけられてはかなわない――補佐官はもちろん医者まで、から距離を置くようになって久しい。世話係の女官たちも何も物を申さなくなった。


 ブリクリウも、いつしかこのの下卑た性質を改めることについて諦めてしまった。


 昨今では、父宰相・ネムグラン=オーラム元帥が、この嫡男の好色ぶりに難色を示しているとも聞かれる。


 触らぬ神にたたりなし。アルイルの性欲を抑え込むことがかなわぬ以上、その閨室から距離を置くことが一番だとブリクリウは心得た。


 こうして、東都最大の権力者の寝所は、になり、彼が連れ込むと決め込んだ女性は、メディカルチェックすら受けずに、入りするようになった。



***



「あの……」

 副官・キイルタ=トラフの手に引かれ、少年従卒――もとい、ヴァーラス城の令嬢・ソル=ムンディルが戸口に立っていた。伏し目がちな水色の瞳に、長い睫毛まつげがかかっている。


 グンボリ城塞の一角、参謀部の部屋は静まり返っている。作戦発動前の下準備のため、ゴウラ、カムハル、レクレナ等、他の参謀たちは不在であった。


「なんだ、まだいたのか」

 セラ=レイスは、体を起こさずに応じた。軍靴を履いたまま、長椅子に横になっている。


 相変わらず、彼の長身からして、ソファのサイズは小ぶりであった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


あれ?ソルは東都に送られていたのでは……と思い出された方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「東都の朝 下」お楽しみに。


「あの……まだ、ここに……」

ソルは、お腹に力を込めて、小さな軍靴を半歩進める。

「私はここに……参謀部に居てもいいの……?」


トラフは優しく表情をくずし、上官の発言を待つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る