【12-13】ケニング峠の戦い 5
【第12章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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帝国暦383年9月14日、ケニング峠の
16時30分過ぎ、鎧が未完成の帝国軍に向けて、ヴァナヘイム軍は2本の矢を勢いよく放つ。
柔らかい腹部を鋭利な鏃が貫くのは、容易なことだった。
ルーカー師団の先に突き抜けた(北上した)ミーミル隊は、即座に回れ右をする(南下する)。
帝・ヴァ両軍の位置が完全に入れ替わったのである。
19時15分、今度はルーカー師団が、峠側に押しやられる番だった。
だが、二十数キロ先の帝国軍総司令部・通信室では、セラ=レイスが両目を
「いまッ!グラシルへ発令!!」
紅髪の先任参謀の命令は、稲妻のように現地へ飛ぶ。しかし、落雷地点は、混沌と収拾に追われる第1師団司令部ではなかった。
後方、グラシル城塞であった。
総司令部からの命令を受けて、同城塞から奔流のように帝国兵馬が飛び出していく。
作戦発動にあたってレイスは、騎兵を中心とした予備戦力を、城塞に残しておくよう第1師団に指示していた。そして、有事の際には、総司令部からの命令でこの別動隊を動かすことについて、同師団の了承を取り付けている。
ルーカー師団を打ち破り、回れ右したヴァナヘイム軍の後背に、グラシル城塞から突出した帝国別動隊が襲いかかった。
20時30分、南側の第1師団と北側の別動隊に、ミーミル麾下は完全に挟撃される形となった。
ヴァ軍の「中央突破・背面強襲運動」を、レイスは逆手に取ることに成功したわけである。
通信兵たちは、次々と感嘆の声を上げるとともに立ち上がり、図面に見入っていく。
そこでは、青駒群が、赤駒群によって上下を挟まれていた。
それらを見下ろす背の高い先任参謀は、自信と愛嬌をないまぜた表情を浮かべている。
作戦図から顔を上げたレイスは、テーブルの端に皿とコップを乗せたトレーが置かれていることに気が付いた。
戦況に集中するあまり気が付いていなかったが、副官のキイルタ=トラフが、夕食を用意してくれたのだろう。
ブレギア軍による
「キンピカに、『さっさと体勢を立て直せ』と伝えろ」
レイスは、ぼそぼそとしたポテパンを
第1師団が機能を取り戻すことで、南北挟撃の形は完成するのだ。
「……」
だが、トラフはそれに応じようとはしなかった。
この黒髪の副官は、得意満面の上官など打ち捨て、現地からの打電に集中している。それらについて、あらかた復号を終えるや、作戦図の脇に進んだ。
ところが、彼女は図上に手を伸ばすと、その白い指で赤駒を次々と
「ん……?」
何してるのお前――レイスが問いただす前に、図上、グラシル城塞から突出したはずの帝国別動隊は、少なく頼りないものとなってしまった。
レイスの表情には、自信と愛嬌を残していたが、そこに困惑が幅を利かせ始める。
「どういうことだ」
「城塞から出撃した別動隊の数は、1,500とのことです」
トラフはいつも以上に感情に乏しい声で応じた。
「は……?」
レイスの口元からポテパンが落ちる。
俺は、少なくとも5,000の兵馬を城塞に残すよう命じていたはずだが……その声は、すがりつくような響きを帯びてしまう。
「現地において、我々の
トラフの灰色の瞳は、作戦図の上で寂しい姿になり果てた別動隊を見つめている。
事情はどうあれ、ヴァナヘイム軍の後背を襲撃している帝国軍は1,500だけなのだ。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
レイスによる挟撃殲滅戦が不発に終わったことで、ホッとされたミーミルファンの方、ぜひこちらから、フォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「【イメージ図 ⑤ ⑥ ⑦ ⑧】ケニング峠の戦い」お楽しみに。
ミーミルによる中央突破・背面強襲運動を逆手に取り、レイスによる第1師団・城塞別働隊の挟撃態勢を発動しました。
ところが、その別動隊の規模があまりにも貧弱で――知将2人の駆け引きを、一挙に4枚の図面をもって解説します。
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