【11-9】朝の軍議に戻って 中

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

【組織図】帝国東征軍(略図②)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139559095965554

【世界地図】航跡の舞台※第9章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139556452952442

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 ――それにしても、見事なものだ。

 後方予備隊隊長・セラ=レイスは、賞嘆の息を吐いた。


 対ヴァナヘイム国戦役において、当初彼が築いた「帝国勝勢」という形勢は、いまや完全に逆転されたわけである。敵総司令官・アルベルト=ミーミルの力量を認めざるをえない。


 ブレギア国のキアン=ラヴァーダ宰相、ステンカ王国のV=ラージン国王のほかに、帝国軍がここまで叩きのめされた事例を、近年確認することはできない。


 序盤戦の圧勝のうえでの完敗である。


 敵は勢いづき、味方の士気は阻喪そそうする。



 右翼各隊は、あれだけの惨敗を喫した割に、下士官・兵卒の損耗そんもう率が悲観的な数字に至ることはなかった。アトロン連隊の殿しんがりとしての役割が、いかに秀逸だったかを物語っている。


 ところが、再建途上における右翼各隊の士気は、すこぶる振るわなかった。


 軍司令や師団長以下、指揮官たちは、自分たちを見捨ててトンズラこいた輩ばかりである。せっかく生還したというのに、そんな者たちの下に付けられて、兵卒達は再び地獄のような平原へ送り込まれるわけだ。


 士気が上がる方がどうかしている。


 これでは、レディ・アトロンも浮かばれないことだろう。



 ――ずいぶとまぁ、まずい展開になったものだ。

 レイスの脳裏に地図が広がっていく。


 帝国東都から遠く離れ、ヴァナヘイム国奥深く進軍すること1,000キロ――この長大な距離も、帝国軍の士気下落に拍車をかけていた。


 相も変わらず、ブレギアの騎翔隊が各所に跋扈ばっこし、帝国輜重隊しちょうたいおびやかし続けている。おかげで銃砲弾はもちろん、将兵の食事にも事欠く有り様だ。


 こうした異国の平原での敗北や停滞は、兵卒の望郷の想いを日に日に大きく育てていることだろう。



 レイスの脳裏では、イーストコノート大陸地図から、上座を占める参謀連中の表情へと切り替わった。


 入室した際に一瞥いちべつしただけだが、青白い顔をしてうつむく彼らに、事態打開の策を秘めている様子はかけらもうかがえなかった。


 東都の黒狐――ターン=ブリクリウ大将――の後ろで、肩で風を切って歩いてきた頃の面影など、どこにもない。


 敵司令官の戦旗は彼らの夢のなかでもひるがえり、「狼の咆哮」は彼らを毎晩のように苦しめていると聞く。



 今朝の軍議もこれまでどおり、「戦線への後備部隊の逐次投入」という、その場しのぎの対策が論じられるはずだった。



 ――そろそろ、俺らにも出撃が命じられるだろうか。


 もう1度死んで来い、と。


 レイスは口端を自嘲気味に歪める。



 しかし、この朝の軍議は、いままでと違った。定石を踏襲するだけのような議事進行が妨げられたのである。


 突如、老将軍が口を開いたのであった。



 意外な展開に、レイスははじめてあおい両眼を開いた。


「帝国東岸領総帥・アルイル上級大将から、お言葉が送られてきている」

 ぼそぼそとつぶやくような声で言い終えると、老将軍は銀製の筒をうやうやしく手に取り、封蠟ふうろうを切った。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


狐面の大将の子分たちも、優秀ではあったが、ミーミル相手では後手に回ってしまったな……と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「朝の軍議に戻って 下」お楽しみに。


節くれだった指を動かし筒から書状を抜き出すと、それを目の高さまで掲げた。そして、両手でゆっくりと拡げていく。


アトロンは軽く咳払いすると、書状を音読しはじめた。


「……そこで、私は、参謀人事を刷新したいと思う」

老司令官の言葉に、集会所内に集った者たちは背筋を正した。

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