【11-8】朝の軍議に戻って 上

【第11章 登場人物】

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【組織図】帝国東征軍(略図②)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139559095965554

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国軍は、先月の右翼壊滅以降、敗北に後退を重ねている。


 とりわけ、数日前のエレン郊外での惨敗――作戦を面白いように看破され、一族で同士討ちを演じた挙句、ヴァナヘイム軍に一掃されたブランチ家の醜態――は、将兵の士気を極限まで阻喪そそうせしめた。


 帝国暦383年の8月25日、朝6時過ぎ――事態の打開を期して、帝国軍では、各隊指揮官クラスの将校たちが召集された。


【11-2】閉塞の朝 中

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 それにしても、帝国軍総司令部主催の軍議――村落の集会所――の雰囲気は、すこぶる悪い。


 紫煙が色濃くただようなど、早朝とは思えぬほど集会所は空気がよどんでいた。もっとも、集会所も深夜に至っても気温は落ちず、じっとりとした湿気が滞留している。


 長引く酷暑のため、集った将校たちは皆、服装が乱れていた(総司令官1人を除いて)。


 早朝軍議では、新たに編成された中央・第5師団の席が設けられていた。そこに場違いなほど若い士官が数名、落ち着きなく座っていたのも、帝国軍の窮状を端的に表しているものと思われる。


 新設師団の高級士官は、第3師団・ブランチ一族の壊滅に巻き込まれて戦傷を負ったか、その後始末のため持ち場を離れられないか、どちらかなのだろう。


 セラ=レイスは己の年齢と境遇を忘れ、鼻で笑った。


 この軍議では、彼が一番若い士官であり、瓦解がかいした所属元の敗残兵を預かる身の上なのだが。



 イエロヴェリル平原における、先月20日からの一連の大規模戦闘で、帝国軍は中央・第3師団より一足早く、右翼が壊滅している。


 右翼各隊の撤退の時間を稼ぐため、第3連隊がヴァナヘイム軍の前に踏みとどまり、同連隊指揮官・レディ・アトロンは平原に散った。


 離散した兵卒は集まりつつあるが、再建にはいましばらく時間を要しそうだ。


 絶望的な戦場からの離脱を果たしながら、損害を免れなかったレイス隊は、所属元たる第3連隊の敗残兵――再編後も一部隊として組み込むには半端な余りもの――とともに、臨時大隊に組み込まれた。


 そのまま、予備隊として後方に置かれている。


 そして、この紅毛の若者は、同隊指揮官としてこの軍議の末席に座らされていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


防戦一方に陥った帝国軍――そこへレイスがどのように関わるようになっていくのか気になる方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「朝の軍議に戻って 中」お楽しみに。


レイスは、上座を占める参謀連中の表情を思い浮かべた。


入室した際に一瞥いちべつしただけだが、青白い顔をしてうつむく彼らに、事態打開の策を秘めている様子はかけらもうかがえなかった。


黒狐――ターン=ブリクリウ大将――の後ろで、肩で風を切って歩いてきた頃の面影など、どこにもない。


敵司令官の戦旗は彼らの夢のなかでも翻り、「狼の咆哮」は彼らを毎晩のように苦しめていると聞く。

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