【8-15】小骨 下

【第8章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044

【イメージ図】イエロヴェリル平原の戦い

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139554877358639

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 次々と舞い込む勝報に沸きかえるヴァナヘイム軍陣営で、その最大の立役者が人知れず悩んでいた。


 帝国軍右翼の各個撃破に成功したイエロヴェリル平原には、総司令官・アルベルト=ミーミルにとって引っかかる存在があった。


 小勢だった。だが、取るに足らない兵数に不釣り合いなほど、優秀な砲兵と銃兵を擁していた。


 1つは、わずか数百の小勢ながら、「大砲に金貨を添える」という独特の旗印のとおり、強力な火砲を保有していた。


 もう1つは、「黒コガネ」の旗を持つ部隊であった。1,000強と、連隊規模であったが、訓練は十分なほど行き届いていた。隆起した地形を活かしつつ、銃兵を恐ろしいほど効率よく配置していた。


 コガネムシの旗印は、帝国東征軍総司令官ズフタフ=アトロンのものとして有名だが、このような最前線にどうして翻っているのだろうか。戦功によって下賜されたものかもしれない。


 これら帝国2部隊は、ミーミルにとって、さながら喉に引っかかった魚の小骨のようだった。


 放置しておくには、そこから放り込んでくる砲弾が、ちとうるさかった。駆逐しようにも、旅団程度の部隊を差し向けたところで、銃弾の的になるばかりである。


 そこで、7月23日午前5時、総司令官の命令を受けたヴァナヘイム軍左翼・アルヴァ=オーズ軍団は、平原にはぐれたかのようなこの2部隊を一蹴すべく、矛先を定めたのだった。



 再びイエロヴェリル平原に、銃声がこだまし、砲煙が流れた。


 20日未明から始まったヴァナヘイム軍左翼・帝国軍右翼の戦闘は、ヴァ軍の勝勢いよいよ揺るがぬ局面である。


 ただし、猛烈な日差しの下、3日間戦闘を継続し、さすがのオーズ中将麾下の各隊も、動きにキレを失いつつある頃合でもあった。


 対する敵2隊の連携は見事だった。


 「大砲に金貨」の部隊によってしたたかに砲弾を送り込まれる。勢いを鈍らされ、よろめき出たヴァ軍は、「黒コガネ」の部隊によって的確に銃弾で仕留められたのである。


 この帝国2部隊によって、オーズ師団各隊は、予想以上の出血を強いられたのであった。



 7月23日午前10時、数時間にわたる攻防の末、たまらず、ヴァナヘイム中軍から、引き揚げを命じる信号弾が上がった。


 ミーミルが後退を決断した背景には、酷暑による疲労蓄積などの外的要因だけでなく、総司令官の戸惑いなどの内的要因も含まれていた。


 いずれにせよ、わずか2部隊、旅団程度の敵勢のために、ヴァ軍は一時撤退を余儀なくされたのである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


さしものミーミルも、アトロン連隊には手を焼いているな、と思われた方、

「戦時の大砲、平時の経済」――レイスらしい旗印だな、と思われた方、

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「遅々として」お楽しみに🐢

フェイズは、帝国レディ・アトロン連隊に移ります。


「大佐、くどいようですが、負傷兵は残し、戦闘可能な者だけでも、いち早く後方の本軍に合流させるべきではないでしょうか」


「……ならん」


レディ・アトロンは、馬上前方を見据えたまま、セラ=レイスからの何度目かの提案を一蹴した。

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