【7-3】欠乏 下

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国各隊における食糧不足は、次第に看過できないものになってきている。


 帝国軍の輸送部隊に襲撃をかけているのは何者か――。



 整った装備と高い戦闘能力から考えて、訓練を重ねた正規兵でなければ、できない芸当だろう。野盗・山賊の可能性は低い。


 しかも、数百キロの距離を自由に動き回ることができていることから、歩兵でなく総騎兵部隊を遊弋ゆうよくさせていることになるだろう。



 紅毛の上官の推測は続く。



 数百キロ離れた地点を、それほど時間を空けずに攻撃できていることから、その総騎兵部隊は複数存在しているということになる。


 さらに、襲撃早々に砲撃するパターンが多いことから、敵は馬に小型砲を曳かせている――騎兵砲を有している――ことも予想される。



 騎馬砲兵は、運用にとてつもない金と手間がかかる。


 兵士には、騎手として鍛錬はもちろんのこと、砲手としての知識・訓練も不可欠である。


 さらに、小型とはいえ重い砲車を長距離牽引することから、馬匹には力と速さ双方が求められた。輓馬ばんばとしても乗馬としても優秀な馬匹が、替え馬も含め大量に必要になるのだ。


「騎馬砲兵を、同時に複数動かしているのか……」

 そこまでで、アシイン=ゴウラ少尉は言葉を失った。


 帝国東征軍の各部隊では、補給物資が次第に届かなくなっている。士官の夕食の葡萄酒だけならともかく、兵士の日々のパンにもこと欠く事態になれば、戦争どころではなくなる。



「敵の狙いは、我らを飢えさせることにあるのだろう」

 紅毛の上官の推察は、結びの言葉まで異論を差しはさむところがなさそうだ。


 部下たちが一斉に深いため息をついたのと、無電受信機がけたたましく動き出したのは同時だった。


 すかさず、キイルタ=トラフ中尉が左手で暗号帳を開くと、受信機の紡ぎだす記号を文字に置き換え、右手で紙上に落としていく。







 ワレ、フレヤノチニテ、シュウゲキヲウケツツアリ――。



 味方の輸送隊から発信されたものだ。フレヤはここから近い。



「我々だけでも出るぞ。レクレナ少尉、ただちにアトロン大佐に連絡を取れ」


 レイスは再び手に仕掛けた空瓶を放り出すと、部下たちに直属の将兵500の出動を命じた。


 蜂蜜色の髪の少尉は、はじかれたように受話器を手に取る。えーとぉ、女王様のダイヤル番号はいくつだったかな、と。


 彼らは機敏に動き回り、出撃に向けて自らの役割を果たしていった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「蹄の印 上」お楽しみに。


砕けたカンテラから油が漏れて引火したのか、炎が勢いよく上がっている。


はるか前方に、小さな灯りが高速で遠ざかっていくのが見えた。この輸送隊を襲ったヴァナヘイム軍に違いない。


「追撃をかけますか」

トラフは、背後の上官に向けて馬首を廻らした――。

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