【7-4】蹄の印 上

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 無電の第1報によると、帝国軍の輸送部隊は、フレヤ郊外で襲撃を受けているという。


 アトロン連隊長の出撃許可を得るや、セラ=レイス麾下500は、現場に向けて急行していた。


 付近で味方の補給隊が窮地にあるとの急報に接し、夕食休憩中だった彼らは、取るものとりあえず、飛び出してきたのである。


 この日も猛威を振るった太陽は西に沈み、あたりは暗闇に包まれはじめている。気温は急激に落ち、進行方向よりやや冷たい風が吹き始めていた。


 カンテラの光が地面を照らすが、たちまち闇に呑まれていく。


 レイスのほか、トラフ・ゴウラ・カムハル・レクレナ等、主だった者たちは騎乗であるが、兵たちは徒歩である。行軍の速度はそれほど上がらない。



「そろそろ、フレヤ街道に入ります」


 先導する兵卒の報告に無言でうなずいたトラフは、その鼻腔にかすかな焦げ臭さを感じた。彼女の蒼みがかった黒髪は、どういうわけか闇夜に溶け込むことはない。


 焦臭は、進むごとに硝煙特有のツンとした香りが混ざり、そして強くなっていく。


 レイス隊の全員がその臭気を強く認識した頃、前方に帝国軍輸送隊……否、輸送隊の残骸を発見した。



 砕けたカンテラから油が漏れて引火したのか、炎が勢いよく上がっている。


 はるか前方に、小さな灯りが高速で遠ざかっていくのが見えた。この輸送隊を襲ったヴァナヘイム軍に違いない。


「追撃をかけますか」

 トラフは、背後の上官に向けて馬首を廻らした。


「いや、よそう。あれはやはり総騎兵のようだ。とても追いつけそうにない。それよりも負傷者の発見・救護を優先する」


 紅毛の上官の意をんだ部下たちは、下士官や兵士たちに的確な指示を出していく。


 トラフも馬から降り、周辺を確認した。



 炎が破砕したカンテラから糧秣りょうまつ袋に燃え移り、周囲を煌々こうこうと照らしている。


 帝国軍の護衛兵はあちこちに倒れ、生存者は視認できない。横たわった馬が苦しそうに足を動かしている。


 横転し車軸の折れた荷車が数台うち捨てられているほかは、輸送物資は根こそぎ持ち去られていた。



 生存者は数えるほどしかおらず、みな深手を負っていた。1人1人に応急処置を施し、牽引けんいんしてきた馬車の荷台に載せていく。


 それらの処置を終えると、トラフたちは、レイスのもとに再び集合した。


 しかし、この紅毛の上官は、すぐに次の指示を出すことはなかった。


 先ほどからずっと、彼は片膝をついたままカンテラをかざし、何かに見入っている。












「……ブレギアだ」

 ふいに、レイスの口から国名が漏れた。


 北原にある馬の名産国の名を耳にして、トラフは少しだけ首をかしげた。


 彼女が周囲を見やると、ゴウラやカムハル、それにレクレナたちも、戸惑った様子で顔を見合わせている。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


襲撃を受けた輸送部隊の惨状に驚かれた方、

突然出てきた草原の国名に戸惑われた方、

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「蹄の印 中」お楽しみに。


「ブレギア国とヴァナヘイム国は、長年敵対してきたはずだ……」

レイスは、自分の考えを整理するように言葉を継ぐ。

「……ヴァナヘイムの危機は、ブレギアにとって好機のはず」


 だが、ブレギアはヴァナヘイムではなく、この帝国を相手に仕掛けてきた。


「まさか……」

「ああ、そのまさかだ――」

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