【7-2】欠乏 中

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 セラ=レイスの小さな部隊でも、食糧不足は人ごとではなかった。


 師団司令部ですらアルコールに事欠く有り様である。まして、大隊に毛が生えた程度のレイス隊では、葡萄酒の配給などとうになくなり、この日の夕食では、付け合わせの野菜すら、人数分揃わなくなった。


 食後、軍支給のコーヒーで我慢する彼らの話題も、自然と補給部隊のものになった。


「先週はイエリン近郊で襲撃を受けたと聞いている」


「その前は、ヨータとグンボリ同時だったぞ」


「グンボリ!?ここから一体何キロ先だ?」


 グンボリの街は、限りなく帝国領に近い。そのような遠方にまで、ヴァ軍が出没したという事実に、アレン=カムハル少尉ほかレイスの部下たちは、驚きの表情に支配された。


 たまらず、アシイン=ゴウラ少尉が、意外性に富んだ推測を口にする。

「まさか、敵の連中は、山賊どもと手を組んだのではあるまいな」


「さんぞく……」

 ニアム=レクレナ少尉が、驚きと納得をブレンドさせた声で復唱する。


 考えられなくもない。


 ヴァナヘイム軍は、王都まで突破されぬよう、現状の守りを固めることで精一杯のはずだ。


 よしんば、彼らが陣営のいずこからか部隊を送り出し、帝国軍の後方をやくしているとしても、数百キロ離れた国境付近まで走破しているとは考えにくい。


 国境近くを縄張りとする山賊と手を結び、その界隈かいわいを襲撃させているとすれば、筋が通る話であろう。



 部下たちは、一様に静まりかえった。


 彼らは誰とはなしに、上官へ視線を集めていく。


 レイスは、ワインの空瓶を両手でもてあそびつつ、ラベルに書かれた文字をぼんやりと眺めていた。


 この紅毛の少佐は下戸であり、食後のワインが無くても不自由はない。


 一方で、目の前の黒い液体に口をつけた様子は見られない。彼にとって、アルコールよりも、砂糖と脱脂粉乳の不達の方が一大事なのだろう。

 

「……山賊の線はないだろうな」

 思考の整理が終わったのだろうか、空瓶を脇に置き、レイスは口を開いた。


「いかに補給部隊とはいえ、帝国正規軍の護衛がやられているんだ。山賊ふぜいが出来る芸当じゃない」


 確かに、襲撃現場に居合わせて、生き残った護衛隊将兵の証言をまとめていくと、帝国軍輸送隊への急襲は実に鮮やかだった。


 すなわち、手始めに一連の砲撃によって隊列を乱すと、銃騎兵を中心にした一軍が襲いかかり、護衛兵・輜重兵ともども撃滅させる。


 その後、置き去りにされた物資を丸ごと奪っていくようだ。


 帝国軍も相次ぐ被害により、護衛を増強し続けているが、先日ドリス郊外では200名もの輸送隊が殲滅させられている。



 こうした状況から、レイスはヴァナヘイム軍の襲撃部隊について、次のとおり推測した。


 整った装備と高い戦闘能力から考えて、訓練を重ねた正規兵でなければ、できない芸当だろう。


 しかも、数百キロの距離を自由に動き回ることができていることから、歩兵でなく総騎兵部隊を遊弋ゆうよくさせていることになるだろう――。





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この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「欠乏 下」お楽しみに。


「敵の狙いは、我らを飢えさせることにあるのだろう」

紅毛の上官の推察は、結びの言葉まで異論を差しはさむところがなさそうだ。


部下たちが一斉に深いため息をついたのと、無電受信機がけたたましく動き出したのは同時だった――。

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